エル・マパ

深川夏眠

el mapa


「ぶう」

 は喃語しか発することができない。しかし、涎を垂らしつつクレヨンを握って地図に線を引く。

「ぶあ」

 赤い蜜蠟のスティックで未確定境界線を修正する。りきみ過ぎてクレヨンが折れた。坊ちゃんは癇癪を起して小さな拳を振りかざした。

「休憩なさいますか?」

 坊ちゃんはストローマグの麦茶を一心不乱に吸い上げた。

「うぱぱ」

 歓びの声と共に麦茶が紙面に零れた。東の国には茶色いスコールが降っただろう。

「あばばば」

 きょうが乗ったか、折れたクレヨンを転がして西の国の大半を血の色に染めてしまった。これ以上の惨事は看過できない。わたしは坊ちゃんを抱き上げ、午睡に導いた。

「明日またはく地図ちずからやり直しましょう」


                 【el fin】

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エル・マパ 深川夏眠 @fukagawanatsumi

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