2番手までの男の末路
チャーハン
2番手
「こら!!またミスしおって!!」
「す、すみません……」
周りから、いろいろな目線が飛んでくる。あるものは自らを嘲笑してくるような目。あるいは侮蔑を向けてくるような目。
簡単に言ってしまえば、自分がミスしたのを喜ぶような人物たちだろう。
その悔しさを我慢しながら、罵倒に耐える。
「全く……なんでお前はいつも努力しないんだ!!お前を雇った時の履歴書にはたくさんの分野で2位を取ったという実績があっただろう!!お前、その記録をとれなかった者たちに恥ずかしくないのか!!」
「すみません」
「謝れば済むってものじゃない!!」
会社に入ってからわずか3か月、自分は課長からこんな風に毎日罵倒を受けていた。もしかしたら、これはパワーハラスメント(いわゆるパワハラ)に当たるかもしれない。しかし、自分はそのことをだれにも相談しようとも思えなかった。
何故なら、自分が努力をしていないことを自らが知っていたからである。
学生の頃、結果は少しは残してきていた。例えば試験では学校順位2位を取ったりはしていた。しかし、大学受験はどうだったかと言われると、ダメだった。
一流大学ではなく、二流大学に入ることになった。
理由として自分のことを過剰評価していたことが原因なのだろう。そして、自分は努力をするという事をしていなかった。その結果、うまくいくと言われていたこともできずに、大学では自分の実力は下降をしていた。留年をした。
そして、2流でブラックと言われている企業に就職した。それが今いる企業である。学生のうちは結果を出せ結果を出せと言われてきていることに訳が分からなかったが、今になって、やっと知れた。
それは、大人になったら一番しか認められることはないという事だ。感情を殺しても、働き続けて、努力を続けてきたものこそが、上の地位へ行けるのである。
そうして、自分は上司からの注意を受けて、残業を行ってから一番最後に帰った。時刻はその時には夜中の10:00をさしていた。
また、憂鬱に今日は終わるのだろうか。そう思っていた時だった。
「愛媛のミカンはおいしいな♪」
突然、自らの設定していた着信の音楽が鳴り始めた。名前はわからない。どうやら非通知らしい。非通知電話は出ないようにしているので、出なかった。
しかし、そのあとの音声メモを聞いて、誰だという事はすぐに分かった。
自分は急いでしたくをし、会社の窓が閉じているかを確認し、さらにエアコンの電源や自分が使っていたPCの電源が切れていることを確認して、全て大丈夫だと確認をしてから外に出た。
そして、そいつが自分の予想していた人物という事はすぐに分かった。
「よぉ。久しぶりだな」
「さかぎ先輩……」
さかぎというのはニックネームで本来の名前は
「俺、おすすめの飲み屋さん知っているんだ。もしよかったらお前も来ないか?」
「あ、ええと、今、お金がなくて……」
「いいからいいから。俺のおごりで払うからさ」
そう言って、さかぎ先輩は言ってから自分を飲み屋さんに連れて行った。
入る前にさかぎ先輩は「俺、ここの常連なんだ」と言ってから入った。
飲み屋さんには、焼き鳥のにおいが広がり、とてもおいしそうなにおいが広がっている。そして、周りから聞こえるのは仕事帰りのサラリーマンの明るい声であった。
そんなことを気にしている間に、突然、さかぎ先輩はあるものを取り出して見せてきた。自分はわからなかったからすぐに聞き返した。
「何ですか。それ」
「ちょっ……有名な作品だよ?{僕たちとニハシ ~学校卒業編~}鳥が人間のような生活をしているような世界に突然フクロウが学校に転校してきて、色々な事件が起きるという話だよ。知っているでしょ?」
「言え、知りませんが」
「そんな~~。これ結構マニア受けする作品なのよ?」
何でいきなりカマ口調になっているんだろうこの人と思いながら、自分はさかぎ先輩の映画の内容を聞いて、そして唐揚げと焼き鳥とビールを注文してからあることを質問した。
「さかぎ先輩。何で、僕みたいな根暗を呼び出したんですか?」
それは自分が嫌っていることを吐露した気分だった。会社の人からは根暗だ、わざと努力しないくそ野郎だという名をつけられた。正直、今までずっと思ってきていたことだった。
なぜ、自分は努力ができないのだろうか。何故、自分は向上意識がないのだろうか。何故、自分はよくて2番しか取れないのだろうか。
答えられるわけがない質問をしてしまったことを自問自答で理解してから、謝罪をして質問を取り消そうとしていた。
そんな時だった。
「この飲み屋さん、実は最高で2番までしか人気出たことないんだ」
「え?」
自分は突然そう言われて驚いていた。何せ、予想すらしていなかった回答を言われたのだから。
「相当、店主は苦労しただろう。焼き鳥のたれを変えたり、店のメニューの書き方を変えたり、時には壁の色と科を模様替えとかしているときもあったしな」
自分は心の中でこの人はいったい何を言いたいんだろうなと思っていた。
「だが、結果的にはどんなに頑張っても2番手までしか上り詰めることしかできなかった。それでも、だ」
さかぎ先輩は俺の顔を見てこう言ってきた。
「どこかに必ず、必要としてくれている人がいるはずなんだ。それは、俺もお前も同じなんだ。自分に価値なんてないとか、いなくていいとか思うんじゃねぇ。必死に努力しろ。誰かが必ず、見てくれているから」
そう言われた。そして、何かを努力しようと思えた。
そして、自分はエンジニアをやっている。
いつも大変だが、誰かに作れるように努力できればいいと思えた。
あの言葉のおかげでやっていけると思えた。
もう2番でも、悔しくない。
そう思えた。
もし、またさかぎ先輩に会えたならお礼を言いたいと黒服を着て思っていた。
外は、天気雨が降っていたのだった。
~Fin~
皆さんは、自分に自信を無くしたことは、ありませんか?
皆さんは、自分がいなくてもいいやなんて思ったことはありませんか?
そんなことはありません。
たとえ努力が身にならなかったとしても、それを見ている人はいます。
だから――
決して挫折しないでください。
――後日談
お元気ですか。
どうも。8年前はお世話になりました。
3月11日の、14時46分18秒になると、いつも先輩とのことを思い出します。
今となっては先輩と過ごした日々はとても懐かしく感じます。
自分は結婚し、子供を一人持ちました。
妻子は私の体が弱いのでいつも気遣ってくれます。
正直、今となってはもうお礼は言えませんが……
どうぞあちらで、ゆっくりしてらしてください。
*
「懐かしいなぁ……もう、12年ぶりかぁ」
「あの……どうしたんでしょうか。何故、僕は居酒屋に誘われたんですか?」
「まぁまぁ、いいじゃないか。今回は俺がおごるし。それより、この映画を知っているかい?」
「いえ、知りませんが……」
それもそうだ。「僕とニハシ」は、ずっと昔に公開された映画で、先輩と話をした後にかったんだからもちろん世代でもない社員は知る由もない。
そうして、私は「僕とニハシ」という映画の説明をしてから、焼き鳥と唐揚げ、さらに最近追加されたらしいドリンクのメニューを後輩君に見せて、彼がオレンジジュースがいいというのでそれを注文した。
今となっては、私はすでにさかぎ先輩と同じ年になっていた。正直、今となってはあの人の気持ちは自分のことのようにわかる。
何で、あの人が私に手を差し伸べてくれたのか。
何で、あの人は私に助言をしてくれたのか。
それは、あの人が努力家だったからだ。
誰よりも努力し、誰よりも結果を出せないと有名だったあの人だったから、努力をしていなかった自分に喝とは違うが、アドバイスをくれたのだろう。いや、もしかしたら違うかもしれないが。
まぁ、そして何の因果かはわからないが、自分は今、自分の昔と同じ年齢の社員に同じことを言おうとしていた――
終わり
「成長とは」
人に伝授できるまで、自分のすべてを高めるという事である。
この物語の主人公は、先輩に言われて、自分自身で努力するという事を続けた。
読んだ方々には主人公のようにまじめな方々を目指してもらえるとうれしいです。
2番手までの男の末路 チャーハン @tya-hantabero
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