第8話

 三年が経過した。

 秦国は、成蟜せいきょうが即位した。始皇帝になるはずだった人物の弟だ。

 あれはダメだな。愚王だ。

 秦国は落ちぶれて行くのが、目に見えて分かる。


 蒙驁もうごうとか王翦おうせん桓齮かんきがいるので油断は出来ないけど、内政が滅茶苦茶になると思う。李斯りしも重用されなければ、法の重要性も理解されない。

 秦国の統一国家はもうないな。

 代わりに趙国の統一国家樹立……。王様がな~。


 韓・魏・楚・趙の同盟は、生きている。

 秦国包囲網だな。


「もう、合従軍を起こして、秦国を倒しちゃいませんか? 滅亡させちゃいましょうよ」


 李牧将軍からだった。

 少し考えてしまう……。


「もうちょっと、時間をかけましょう。今の秦国は、充実しています。そんな相手に侵攻するのは、愚策です」


「……なるほど、兵法に適っていますね」


 問題は、長平だった。この三年間、攻め続けられている。

 楽乗将軍が守り続けているけど、結構兵士を死なせているらしい。

 廉頗将軍は、李牧将軍と龐煖将軍と共に燕国を防いでいる。邯鄲に近づけさせなければ、問題なさそうだ。


 悼襄王は、忠臣に囲まれる生活が嫌で、奥に籠っている。

 そんな訳で、丞相に任命された俺が、趙国を運営しているのだ。


「税収も順調だし、反乱も起きないんだよな~」


 地震と干ばつは、まだ先だ。10年くらい先かな~。備えるには、早すぎる。


「やっぱ問題は、長平だよな~」


 戦費も馬鹿にならないけど、秦国の消耗の方が激しい。長期化させて、国力を削っているんだけど、ちょっと長すぎだよね。

 そんな訳で、俺は長平に出向くことにした。



「楽乗将軍、ご苦労だったのね~」


「趙括丞相? どうなされました?」


 戦場視察だよ。

 どれどれ……。敵は、蒙驁か。う~ん、廉頗将軍を呼び戻したいな~。


 でも正面からは、戦いたくない。

 韓国と魏国に連絡して、糧道を断って貰う。

 秦軍が、飢え出したのが見えたので総攻撃だ。

 もうね、兵法とか関係ないね。戦略レベルになっているよ。

 そうすると、蒙驁は、あっさりと引いてくれた。


「秦国も疲弊してんだろうな~」


 追撃戦は、韓国と魏国に任せた。趙軍は、動かさない。


「流石です。趙括丞相! 見事以外の言葉がありません!」


 楽乗将軍が、賞賛を送って来る。


「また来るかもしれないから、防衛をお願いね~。偽の撤退に惑わされないでね~」


「お任せを」


 楽乗は、本来なら廉頗将軍に負けて、罪に問われるのを恐れて出奔するんだったよな。その後、歴史から消える。

 でも、優秀な人材ではあったみたいだ。



 邯鄲に帰ると、意外な話が出て来た。


「悼襄王が、退位すると?」


「病気で政務を執れないので、後を趙括丞相に全部委任すると」


 木簡が、差し出されたので見る。

 マジで?





 今日は、趙公子嘉が擁立されて、王になる日だ。

 趙王嘉の誕生の日だ。王名は、後から決めよう。

 李牧将軍と共に即位式に臨む。


「趙括丞相……。丞相の活躍により、秦国も退けられて、これから趙国は成り上がって行くでしょう。国中が歓喜に満ちております。この国を発展させるのは、趙括殿をおいて他におりません。民衆も【戦場談兵】と噂しており、統一国家樹立も望まれています」


 戦場談兵? ――現実の兵士を持って戦場で対話する?

 【現場主義】ってこと?


 おう? 仇名が変わってんじゃん?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【紙上談兵】はしませんよ~趙括に転生したけど、長平と趙国はなんとかします~ 信仙夜祭 @tomi1070

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ