第7話

 信陵君の援軍という形で、趙国は戦争を続けていた。

 そうすると、孝成王が逝去した。この歴史線では、それほどの暗君とは言われなくなっていたな。長平の敗戦も邯鄲包囲もなかったしね。それはそのまま、俺の有能さを示している。

 それと、平原君もいなくなっていた。こればかりは、どうしようもない。


 そして登場する、暗君の悼襄王とうじょうおう

 どうしようもない王様の一人だ。

 即位したと思ったら、いきなり廉頗将軍の更迭を言い出すし……。本当に仲が悪いな。


「王様! 廉頗将軍がいなくなれば、趙国は侵略にあいます!」


「そちと、楽乗がくじょうがいれば、問題ないやろう?」


「ダメっす。他国に武威を示せません! それに、廉頗将軍が他国に行ったら、脅威がそのまま趙国に向かいます!」


 悼襄王は、ついに俺まで解雇すると言い出した。

 ちっ。やっぱ、馬鹿王は変えられないな。

 無言で王宮を後にした。





「何処、行こっかな~」


「……括。なにニートしているんですか? 働きなさい」


 母親からだった。

 しょうがないじゃん。王様に、職を奪われたんだよ。

 一族連れて、どっか行くかな~。

 そう思っていると、秦国から連絡が来た。


『うち来ない? 大将軍にするよ。荘襄王より』


 う~ん。魅力的だな~。行こっかな~。

 馬鹿王に仕えるより、将来有望な国だよね。嬴政にも優しくしたし、冷遇はないと思う。いきなり丞相もありえるよね。呂不韋がいるから、左丞相かな?

 そんなことを考えている時だった。

 連絡が来た。


「趙括殿! 長平が攻め込まれています!」


 話を聞くと、楽乗将軍が守っているのだとか。

 秦国は、反転攻勢に出たんだな。

 廉頗将軍の更迭は、回避されたけど、兵権を与えていないのだとか。

 飼い殺しかよ……。

 上党も取られちゃったのね……。

 即位直後から、真っ逆さまに転落してんじゃん、荘襄王さんよ~。


「泥船に乗っても意味ないよな~」


「そう、悲観しないでください」


 誰かが、部屋に入って来た。


「どちら様ですか?」


「李牧です。雁門から呼ばれました」


 早くね?

 でも、対燕国で呼ばれんだっけ?





「趙王の側近が、王に従わない?」


 話を聞いて驚いてしまった。

 趙国の中枢には、忠臣しかいなくなっていたらしい。そういえば、郭開を暗殺したんだっけ。

 そんで俺の有能さを示したら、佞臣は他国に逃げてったのか。

 気がついていなかった。


「将来の丞相とも噂された趙括殿が、ニート生活とは……、嘆かわしいです」


 やかましいわ! だったら兵権返せよ!

 いや、落ち着こう。


「李牧殿がおられれば、趙国も安泰でしょう。私は隠居しています」


「そんなにお若いのに……。なんてやる気のない」


 もうね、疲れちゃったのよ。

 せめて王様がまともならな~。


「信陵君も亡くなりました。これから、各国は秦国の猛威に震え上がるでしょう。ですが、それを防ぐことができる人材がおります。統括殿、あなたです! あなたが丞相になれば趙国が救われる!」


「やりましょう!」


 固い握手を交わす。

 趙国にも、まだ人材はいたんだな。

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