タンデムシート
丁山 因
タンデムシート
体験者さんは「オチとかない話だけど……」と、申し訳なさそうに語ってくれました。
その日がいつだったのか鮮明に覚えている。2019年8月15日、20代最後の盆休みだ。
友達と花火大会に行こうって計画していて、その後は飲みに行く。参加メンバーは野郎のみで俺を含めて4人。
大会は全国的にも知られていて、毎年50万人くらいの集客がある。そうなるともう現地に行くのも大変だ。この時は俺が車を出し、3人と合流して某駅へ行く。そこから電車に乗って会場近くの駅まで。そんな段取りだった。
花火見物が終わった後は再び電車に乗り、車を置いた駅で下りる。そこから地元に戻って居酒屋へ。車を使ったのは、帰り客でごった返す電車の乗車時間を短縮するためと、友達をそれぞれの家に送り届けるためだ。俺は下戸だからドライバーにはちょうどいい。その代わり飲食代は3人が持ってくれる。そんな約束だった。
3人目を送り届け家路につく。時間は11時を過ぎたあたり。人気のない堤防道路を延々と進む。この道は一方通行の細い道路で、普段は地元の人間しか通らない。気が付くと前方にテールランプ。オートバイだ。この道幅だと追い越しなんて出来ない。俺はバイクの後を付いていく。
しばらく行くと橋があり、交差点は赤信号。バイクも俺も停止する。その時バイクを見て、俺は思わずつぶやいた。
「なんだ、女連れか……」
車のライトが照らした先には4本の脚。何で女だって思ったかと言うと、後ろの脚は生足だったからだ。真夏だって言うのに真っ白で、太股のかなり上まで露出している。
「虫とか大丈夫なのか?」
なんて余計な心配をしながら目線を上げる。そこで俺はギョッとした。
人がいない。
正確に言うとライダーはいる。その後ろには当然誰かが乗っているはずだ。だけど誰もいない。見えているのはライダーの背中だけ。
俺は何かの見間違いだと思い目をこらす。脚のように見える何かを乗せてるんじゃないかと。でも、そんなことはなかった。どう見てもアレは脚だ。膝を曲げたりぶらぶらさせたり、退屈そうに動いている。おまけに靴も履いてない。だから指がうねっているのもハッキリ見える。
しばらく呆気にとられていたけど、気が付くと青信号。バイクは左折して行ってしまった。アレがなんなのか分からないけど、俺はアクセルを踏みながらルームミラーをひねる。とてもじゃないけど後部座席は見たくない。
そのまま自宅近くのコンビニまで行き、ようやく人心地が着いた。買い物を済ませて後部座席を確認する。あたりまえだけど何も無かった。
それでこの話は終わり。後日バイク事故があったとか、俺が心霊現象に見舞われたなんて話もない。何のオチもない話で申し訳ないけどこれで全部。
体験者さんから聞いた話はここまでです。目撃現場にも行ってみましたが、特に変わったことはありませんでした。ただ、堤防道路の脇には江戸時代の処刑場跡があり、心霊スポットとして某サイトで紹介されています。体験者さんが目撃した生足との因果関係はわかりませんが、後日彼にも教えてあげました。
タンデムシート 丁山 因 @hiyamachinamu
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