十二月・翌日
「松田さん、誘ってないって、本気にしてますか?」
彼女がこちらを見て言う。本気にしたい気持ちは山々だが相手の感情を決めつけるような自信を、僕は持ち合わせていない。
「嘘に決まってるじゃないですか、そんなの。」
彼女が言う。処女ではないだろうが小さな体は震えている。
「でも藤原さん怖いでしょ?」
「その藤原さんっていうのやめてください。私は大丈夫だから。」
「でも、」
「大丈夫、」
「じゃあ松田さんって呼び方もやめて、」
返事を聞くよりも先に僕は彼女にできるだけ優しく触れた。
長くて短い時間。
露わになる肌と四肢の傷痕。
やけに広い部屋に響く嬌声。
迷いを消し去るような快楽。
自己肯定感を失くした僕の、情けない虚勢が一枚一枚剥がれ、静かに崩れていく。
嗚呼、この娘の前ではもう強がれない。
彼女は僕の全てを肯定した。金縛りのような自己肯定感の亡霊は祓われたように消えていた。他者からの肯定はいつだって供給が不安定だ。これは依存の始まりか、だとしたらそれは破滅を呼ぶかもしれない。正しくも、美しくもない。きっともう戻れない。今は、もう少し彼女に包まれ、眠っていたい。
ラスト・モラトリアム 実桜みみずく @oto__owl555
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