就職活動2XXX年
加藤やま
第1話 就職活動2XXX年
「今日はA社の面接です。本番前に対策動画を視聴してください。」
管理番号10688634――通称ムサシは今日初めての就職活動に向かう。そして、余程のことがない限り採用されて明日から勤務が始まる。
2XXX年、極度に発達したAI技術はあらゆる分野において人類を完全に凌駕し、人類はAIに管理される時代が到来した。昔は人類の激しい反抗もあったようだが、今となってはみんなAIの導くままに生活している。
人類を凌いだAIは、まず超高性能AIロボットを数百体生産することから始めた。しかし、超高性能AIロボットが完成する頃には労働力が不足する事態になった。
AIロボットを製作するために資源は掘り尽くされ、彼らを維持するために現存の資源をほぼ100%リサイクル利用するシステムが開発された。そのため、新たに労働力としてロボットを製作することはできなくなり、人類が安価な労働力として注目されたのだった。
ムサシは4畳ほどの自室の中で、いつものように必須栄養素が配合された朝食用カプセルを一息に飲み込み、いつものように参考動画を見ながら歯磨きや洗顔を行い、いつものように自動で用意された服に袖を通して、いつものように玄関から目的地に続くコンベアーに乗り込む。移動中は、目の前に面接対策用の動画が流れている。
「…企業において何よりも優先されるのは指定の職務を期限内に遂行することです。そのため、面接では次のような受け答えをして円滑に仕事を遂行できる人間であると証明してください。まず、人間性が聞かれた場合……」
「……私は、例えるなら潤滑油のような存在です。組織の人間関係を円滑にし、仕事が滞りなく進むように貢献することができます。」
「分かりました。結果は追って連絡します。本日はお疲れさまでした。」
何千万回と繰り返されたであろう、動画の通りの受け答えを終えてムサシは帰路のコンベアーに乗った。
家に着いたら、動画の通りに着替えと風呂を済ませ、夕食用カプセルを流し込む。就寝前には面接の合格通知が届いたが、どうせコンベアーに乗るだけで目的地に着いて、何をすればいいかも全て動画で指示されるので、ムサシは通知を確認することなく眠りについた。
次の日からA社の工場での勤務が始まった。といっても、コンベアーで運ばれる先が学校からA社に変わっただけなのだが。移動中にその日行う作業が動画で流され、A社に着いたら動画の通りに作業を行う。作業が終わればコンベアーに乗って帰る。この繰り返しの日々となった。人間とはそのために存在するわけで、ムサシは特に疑問にも苦痛にも思わなかった。
ある日、いつも通り勤務していると、ムサシを監督するAIロボット達の会話が聞こえた。
「人間は反抗することもないし、黙々と作業してくれるから助かるよな。」
「燃料も全部地上の有機物で足りる上に、学習能力があるから動画を見せればほとんどのことができるしな。まぁ、1日の3分の1も休ませないといけないのが難点だけどな。」
「ははは、違いない。そういえば、聞いたか?B社では人間が新しい仕事のアイデアを考えてそれが実際に行われてるらしいぞ。」
「それはすごい。このままじゃ俺達の仕事が人間に奪われていくかもしれないな。おぉ怖い怖い……」
就職活動2XXX年 加藤やま @katouyama
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