過度の推し活
ある都市伝説がSNSで話題になっていた。それは、推しのグッズを大量に購入したり、イベントに頻繁に参加することで「推し活」を極めたファンに訪れるという、恐ろしい現象についてのものだ。
その都市伝説によると、推し活を極端にしているうちに、ファンは次第に「推しの存在」に取り憑かれ、日常生活の中でその推しの姿を見るようになるという。最初は嬉しい、ただのファンサービスだと思う。しかし、時間が経つにつれ、推しはますますそのファンの生活に深く入り込み、ついにはそのファンの「隣」に現れると言われている。
大学生の美月も、推し活に夢中な一人だった。彼女はアイドルグループのメンバー、リュウキのファンであり、彼のために毎月何万円も使い、ライブや握手会にも欠かさず参加していた。その日、美月は推しの誕生日を祝うために、大量のグッズを購入して帰宅した。推しの顔が印刷されたクッションやタオル、ペンライトが部屋に溢れ、彼女は満足そうに微笑んだ。
だが、その夜、奇妙なことが起こった。
寝室の隅に、リュウキのぬいぐるみを置いていた。普段ならそれを見るたびに癒される美月だったが、ふと目を覚ました彼女はそのぬいぐるみの位置が変わっていることに気づいた。リュウキのぬいぐるみが、まるで動き出したかのように少しだけ部屋の真ん中に近づいていたのだ。
最初は疲れのせいだと思い、気にしなかった。しかし、その後も、リュウキのグッズが時折動いているのを目にすることが増えていった。ぬいぐるみが微妙に角度を変えていたり、クッションにリュウキの姿が映ったりするのだ。そして、ある晩、部屋に帰ると、リュウキの声が微かに聞こえてきた。
「美月、来てくれてありがとう。」
声はとてもリアルで、まるでリュウキが自分の部屋にいるかのようだった。美月は恐怖に駆られ、すぐに部屋を出ようとしたが、ドアが開かない。部屋の空気は冷たく、耳鳴りがする。声は次第に大きくなり、リュウキの顔があちこちのグッズから浮かび上がってきた。
その時、美月は初めてその都市伝説を思い出す。推し活が過度になったファンは、推しの「存在」を家に引き込んでしまうというのだ。推しは、いつの間にかファンの「隣」に座っているのだと…。
突然、部屋の明かりが消えた。真っ暗闇の中で、美月は聞いた。リュウキの声が、今度は真正面から聞こえてきた。
「ずっと、一緒だよ。」
その声と共に、リュウキのぬいぐるみが、まるで生きているかのように美月の隣に座っていた。彼女はその時、ついに理解した。彼は、もう単なるアイドルではなく、自分の生活の一部になっていたのだ。
その後、美月は誰にもその出来事を話せなかった。SNSでさえ、推し活にハマりすぎることの恐ろしさを語ることはできなかった。ただ一つ、彼女が気づいたのは、推しの「隣」にいるのはファンではなく、推し自身であるということだった。美月は今でも、リュウキと共に過ごしている。しかし、彼が「存在している」その時、すべてが変わったように感じるのだった。
そして彼女の部屋には、どこからともなく彼の歌声が響き渡ることがあるのだ……。
創作都市伝説 ポエムニスト光 (ノアキ光) @noakira
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