乗ると帰れない電車
ある地方都市に「幻の電車」と呼ばれる奇妙な噂がある。
その電車は、深夜の終電が過ぎた頃、たまに駅のホームに滑り込んでくるという。しかし、その電車に乗り込んだ者は、二度と現実世界に戻れないというのだ。電車の車両は、旧式のものに見え、窓からは不気味に暗い景色が広がっているという。だが、一度乗り込むと、その電車は静かに発車し、行き先も案内されず、どこまでも走り続ける。
ある日、都会に出てきたばかりの若い男性が、終電を逃してしまった。途方に暮れていた彼は、ホームに停車した奇妙な電車を見つけた。最初は違和感を感じたが、疲れ切っていた彼は「これに乗れば家に帰れるかもしれない」と思い、躊躇なく乗り込んだ。
車内には数人の乗客がいたが、皆一様にうつむいて無言で座っていた。彼が席に着くと、窓の外に見慣れない景色が広がり始めた。都会のビル群は次第に消え、代わりに暗い森や不気味な建物が現れた。
そのとき、隣に座っていた中年の男性がぽつりとつぶやいた。「ここに乗ると、もう帰れないんだよ。」
彼は慌てて立ち上がり、降りようとしたが、電車は次の駅に停まる気配がない。車内の空気が冷たくなり、乗客たちの顔が徐々に青白く変わっていった。そして、彼が気づいた時には、彼の手足も凍るように冷たく、動かなくなっていた。
その日以来、彼の姿を見た者はいない。翌日、駅員たちは奇妙なことに気づいた。夜遅くの防犯カメラに、一度も発車していないはずの電車が映っていたのだ。それは、まるで幽霊のように現れ、乗客をさらっては消えていく「幻の電車」だった。
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