最終話 秀才のエピローグ
ハッシーは天才だ。
僕は小学校の頃から、彼のリーダーシップ、カリスマ性、かっこよさ、男らしさ。全てに憧れている。完璧だ。勉強は得意とか下手ではなく、そんなに好きじゃないと言うだけだと思う。お兄ちゃんのテストを見つけてくるなんて、本当に天才だ。今回の期末テストでは、彼が本気を出したんだと思う。ハッシーが本気を出せば、勉強でもスポーツでも僕なんか絶対に敵わない。
夏休みは彼がもっと遠くに行ってしまった感じがした。僕はすごく迷った。彼は僕と仲良くしてくれているけど、僕なんかとずっと仲良くしていても、もったいないと思う。林田さんみたいに優秀な人を意識し出すのも当然だ。でも、もっと彼を近くで見ていたい。そう思う自分もいた。だから、僕が林田さんぐらい優秀になればいいんだと思うことにした。林田さんには負けない。恥ずかしいことだけど、林田さんがいなくなれば、どうなるんだろうと考えたこともある。でも、やっぱり彼が助けたいと思うなら、それで僕を頼ってくれるなら、絶対に役に立ちたいと思った。
僕はお父さんのことがとても怖い。殴られたり、怒鳴られたりしたことはないけど、お父さんが僕を見る目はとても冷たい。お母さんは僕に優しくしてくれるけど、やっぱり家ではお父さんが一番だ。お兄ちゃんもお父さんに似てきて、僕は家にいる時は本当に辛くて、弟がいたらいいのにといつも思っている。でも、彼が困りそうだったから、勇気を出して、お父さんにパソコンを使わせてもらえるように何度も頭を下げてお願いした。代わりに家の掃除もお手伝いも何でもした。部活が終わってヘトヘトになっても、図書館に行って何冊も本を読んだ。彼のためなら、何でも頑張れた。
台風の日は一生忘れないと思う。それぐらい気持ちがぐちゃぐちゃになった。彼が血を流して倒れてしまったのは本当に意味がわからなかった。何もできない自分が悔しくて情けなくて、彼が目を覚まさなければ一緒に死んでもいいと思った。彼が目を覚ました時は涙を堪えるのに必死だった。これ以上彼を傷つけるヤツは絶対に許さない。そう思った。たとえ、誰が何と言おうと、彼が僕のことを何とも思っていなくても。
お盆が終わって、部活がさらに長くなって、僕は体調を崩してしまった。夏風邪をこじらせてしまって、寝込んでしまった。彼のメールに気づけなかったのは、本当に情けなかった。そんな僕を彼は心配してくれた。でも、心配をかけるわけにはいかなくて、もっと自分が惨めになった。
僕には人に自慢できるようなことは何もない。でも、彼のおかげで、彼のためならどんな大変なことでも頑張れるし、我慢できる。
僕は彼のことならなんでも知っている。でも、彼はいつでも僕なんかの想像を軽く超えてくる。
いつか、将来いいお父さんになれたらいいな。
天才を堕とすには、あおり・身代わり・先回り 友坂弥生 @uepon_tommy
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます