テルテル坊主

高黄森哉

テルテル坊主


「明日は雨か。なら、テルテル坊主を作ろう」

「おっ。それはいいな」


 と背広の男の提案に、スーツの男は感心した。


「ではまず私から」


 中年の灰色のスーツの男は首を吊った。部屋に一つ、テルテル坊主が出来上がった。首を吊った男は死ぬまでに、何度も首元へ手を運んでは、力を抜いてだらんと下げたりした。やがて死んで、その変な行動も止めた。


「よし。ここまでんだから、明日は晴れるとは思わないか」


 背広の男は確信めいたものがあった。


「そうだろうな」


 スーツの男だって信じて疑わなかった。

 しかし、次の日は大雨だった。本来、問題ないはずだった台風の進路が、大幅にずれ込み、多大な被害を日本列島にもたらしたのである。


「足りなかったに違いない」

「私も一緒に死のう」


 背広とスーツはせーので首をくくった。

 机の上には、途方もない金額のスーパーカーのパンフレットと、マイホームのカタログが残されていた。それぞれ、二人が夢見た物だった。決して叶わないとしりながら、彼らはずっとその二つのために働いていた。そんな日常を送る彼らには、雨のためにテルテル坊主になるのも、現実味のある方法に映った。だれも、この世の中で正常な判断などしていない。

 約 160kg もの食事にありつくことが出来た台所出身のゴキブリは、明日も雨が降りそうだという予感がした。触覚は敏感に明日につながる湿気を捉えていた。

 

 

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テルテル坊主 高黄森哉 @kamikawa2001

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