紅崎満 Second episode
「じゃあテスト返しまーす。相原さん。」
「はい。」
「紅崎さん。」
「はい。」
「石井さん・・・・・・・・・・」
出席番号順に呼ばれ、皆が解答用紙を受け取っていく。
結果を見て表情が明るくなる人、絶望に染まる人、親への言い訳を考え出す人。
反応はそれぞれだ。
「みーちる!テストどうだった?」
授業が終わるとクラスが誇る嫌われ者である
しかも厄介なのが。
「いつもくらいだったよ〜。」
「そう!あたしは点数上がったんだよ!!」
私の点を聞いたのなんて社交辞令で本当はそれを言いたかっただけなのだろう。
亜金が私の点に興味がないように、私だって他人の点数に興味なんてない。
だいたい点数が上がったって私よりも下だ。
何故、白々しく私が祝わなければいけない?
「あたしすごいよね?桃音。」
「うん、亜金はすごいよ!」
亜金に同意しているこの子は
亜金と同じくクラスで嫌われている。
私はどうしてこんな人たちに気に入られているんだろうか。
人見知りがあるから人付き合いは確かに得意とはしていないけれど、だからって嫌われ者に話しかけてもらわなければ誰とも話せないなんてことはない。
クラスの人間の半分以上とは言葉を紡げるし
グループ分けで誘われることだってある。
これが外面の成果だ。
なのに何故、私は亜金達の仲間として認知されているのか。
亜金と話していると彼女と仲の悪いさくらが話しかけてこない。
なんやかんや言っていてもさくらといる時が一番落ち着くのに、亜金に絡まれるせいで
さくらに嫌がられそうで怖い。
でも関わらないでなんて言えない。
だってこいつは自身も分かっているほど、
我儘。クレーマーで過保護な母が後ろ盾だ。
モンスターペアレントに弱い学校側のことだから何かしらの問題に発展した時のことを考えれば何も言わないのが賢明な判断なのだ。
親が学校に電話する度胸を持っているからって、過保護なくらい娘を優先してくれるからって調子に乗っているのが一番ムカつく。
そのくせ、自分は母親の過保護を鬱陶しがっていて、そのことを無神経に話してくる。
親の過保護を他人に話すことは、私愛されてます宣言をするのと何が違う。
私には亜金がただのナルシストに見える。
それに同調する桃音はイエスマンで自分の意見がなくて気味が悪い。
裏では陰口を言って、結局はしれっと成功していそうなタイプだからタチが悪いと思う。
こいつらより私の方が格が上なのにどうしてナメられないとならない?
心の中で二人をけちょんけちょんに言うことで自尊心が守られる。
捻くれているというのは分かっている。
でも捻くれていて損をしたことなんてない。
口に出さなければ思想は自由だ。
何も罰せられないし、この考えから仲を違えた人だっていない。
「一緒に帰ろう!満。」
「いいよ〜!」
嫌だけど。
「...それでさぁ!この小学校の時の同級生マジでうざいよね?殺してやりたいわー。」
中高女子校の私達の間で話に出てくる男子は小学校の頃の同級生だ。
お互い違う学校に通っていたし共通の友人なわけではないのだけれども。
そして亜金が話の主導権を握ると大抵は愚痴か過去の武勇伝だ。
それに殺してやりたいとか簡単に叶えられるわけのない願いを毎日聞かされる。
「前の奴、歩くの遅くない?殺そうよ」
過激なフリがしたいのか。
普通に痛い奴だと思うけれど。
「殺しちゃだめだよ〜、捕まっちゃう〜」
「そんなヘマしなきゃいい、満なら出来るだろ?」
出来るわけないじゃん。
本気そうな目でいうのやめてよ。
常識も学もない馬鹿が。
九割の会話に殺すという言葉が含まれている側から聞けば物騒な会話。
私を巻き込まないでよ。
「あたし、△大学に行くために勉強頑張ってて!」
「すごい!私まだ手つけてないや。」
何かのために夢中になれること鼻にかけてんの?この私を馬鹿にしてる?
亜金のくせに。ウザい。
「じゃ、ここまでだね。ばいばい!」
「うん!また明日〜!」
話すだけ話して迷惑だ。
「ただいま〜。」
「おかえり!テストどうだった?」
「まぁまぁかな。」
「勉強してたもんね。補修なってない?」
私が勉強するのは補修するのが馬鹿馬鹿しいから。補修になんてなってるわけがない。
「なってないよ。そのために勉強してるし。
ねぇ...進路の話なんだけど。」
「ん?あ、そういえば今日の夕飯何がいい?」
「え..あぁ、シチューとか?」
「いいね!で、何だっけ?」
「なんでもない。」
私は何も熱中できることがない。
だってみんな私のこと好きでいてくれて優しいけど、こっちが何かにこだわろうとしたって、誰も真剣に聞いてくれないんだもの。
世界はこんなにも手厳しい 白薔薇 @122511
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