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 凪爪とスケイル、その激闘は混沌の海へリアルタイムで中継された。もちろん、ギャンブリラ内は言わずもがなだ。

 バーカウンター備え付けのオフィス。棚へ並ぶ古酒銘酒を検めるまでもなく、自生するものといえば灌木ばかりのギャンブリラにあって、美しい木目と風合いのカウンターテーブルを見れば、このオフィスの格調高さは知れる。

「倭克の剣士……」

 壁に埋め込みの液晶モニターへ映る凪爪の立ち姿、オフィスのあるじが感慨深い声でうなった。執務机の本革椅子へ腰掛けて、左手に酒器を携えながら。

猫侍にゃむらいか」

 いや、感慨などと語るには、その感情の発露は強く感じられた。

 緑色の玉石を嵌めた指輪が飾る右手、毛並みが覆うザイルの指先が、肘掛けに立て掛けた得物を撫でる。袖口に銀細工のカフスボタンを付けたスリーピースの背広、なのに指先が弄うのは、倭刀の柄だ。グルルル……と獣のうなり声、得物の感触を確かめる肉球には己が昂りを量るような印象があった。

 凪爪、モニターの向こうで納刀の所作。カメラワークが、鞘に納まろうとする白刃を強調して写し出す。くっきりと現れた、猫球丁字の刃紋を。

「九代、又荼毘またたび

 刀の銘を告げる口許、鋭く尖ったマズルからぎらりと鋭利な犬歯が覗く。

「まさか、こうして相見えようとは」

 鯉口を切り、鞘から抜き出でる白刃。剣呑な逆さみだれ刃の紋様が、鈍く照明を照り返す。

「面白い」と金打を鳴らす倭克の剣士。猫侍の戦敵いくさがたき武犬ものもふはぐいと酒盃を飲み乾した。

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ゼリーフィッシュ・スクランブル 楠々 蛙 @hannpaia

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