【番外編】喫煙所の二人

「あー暇だねぇ。」

 マイは咥えた煙草を唇から離すと、煙で輪を作ろうと口をパクパクさせる。しかし、彼女の口から吐かれる煙はいびつに崩れている。


「一度肺に入れると輪っかは作り難いぞ。」

 パッパと、二連で輪を作って見せると、マイは輪の中心に人差し指を通す。


「トキさぁ──。彼女作んないの?もうすぐ一年経つでしょ?」


「まぁ──どうなんだろ。」

 ポッと大きく吐いた輪が、勢いよく飛んでいく。


「そういや、この間一年生の女の子にアンタ、告られてたね。あの子どうしたの?──お、出来た。」

 マイもパッと煙を吐くと、初めて綺麗な輪が出来ていた。


「あぁ、あんなん本気じゃねぇだろ。外見しか知らないのにって──知らんわって、思わず言っちまったよ。」


「はは、キッツ──。」

 マイはケラケラと笑うと、少しトーンを落とし呟いた。

「もしさぁ、お互い40歳くらいまで独身のままだったら、その時はマイがアンタやるよ。」

「ははっ、頼もしいこって。そん時は頼むわ。」

 私自身も、マイの事はとして、というより好きだった。


「──つか、お前の方はどうなんよ?年上の彼氏は。」

 1ヶ月ほど前、マイが初めて惚気ノロケて来たことがあった。サークルの先輩に告られたとかで、付き合い始めて一週間だとかなんとか。


「あ、別れたよ。とっくに。」

 あっけらかんとしている。

「は?」

「だってあいつ、超女々しかったんだもん。とかさぁ、私はイスラム教徒かっつの。」

 フィルター近くまで火種が来ている事に気付き灰皿で押し潰すと、すぐにもう一本取り出し咥える。


「そりゃあ、お前の事なんも分かってねぇな。案外一途なヤツなのにな。」

 私も釣られてもう一本吸う。


「でしょ?しかもさぁ、超早漏で泣く。」

「──マイ、それは言ってやるな。」


 割と授業をサボりがちな私とマイは、奇跡的に2学年への進級を果たしていた。


 基本的に人間不信の私。

 そして、誰とでも付き合ってはいるが、本心はが大嫌いなマイ。

 不思議と馬が合い、学内での時間は一緒に居ることが多かった。


「──トキ先輩?」

 ふと、前を通りかかった女子学生が私に声を掛けて来る。


「ん?──おぉ、ユキじゃん。お前、ここ来てたんだ。」

 地元の後輩、ユキがこの大学に来ている事に初めて気付いた時だった。


「あはは、お久しぶりっす。──お?もしかして、彼女さんっすか?」

 ユキはマイに対し、ペコりと軽く会釈しながら言う。


「いや、どー見ても違うだろ。」

 私は気だるく煙を吐く。


が余計だわ。」

 マイが拳で肩パンでツッコんでくるが、特に気にしていない様子である。


「あぁ──こいつ、ユキ。地元の後輩。っつか、近所に住んでたガキ。」

 ユキとは同じ住宅街に住んでいたこともあり、幼稚園から中学校まで同じところに通っていた。しかも、母親同士がの仲間だったこともあり、軽く幼なじみでもあった。


「へぇ、じゃあ幼なじみじゃん。──私、マイ。ユキちゃん、なんかちっさいで可愛いなぁ。」


 この日から、マイとユキが良く一緒に居るのを見掛けるようになっていた。


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ペルセウス座流星群 リド。 @Rid_anvicious

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