【番外編】会いたくて-後編-

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『おぉ----!トキ!どうしたー?』

 ヨッシーは相変わらず明るい口調だった。

 既に22時を過ぎていたにも関わらず、2コール程で電話に出た彼は、私からの電話に嬉しそうに応えてくれる。

 私自身、話を聞いてくれる--そんな甘えがあったと思う。


「あ、いや。ヨッシー、悪い。遅くに--。今大丈夫?」

『んだよ、かしこまって。電話に出たってことはOKって事に決まってんだろ?』

 ヨッシーは柔らかな口調であった。


 中学時代の一番の親友。そして、同じひとに恋をした---。


『あ、そうそう。今、アヤコも居るけど、代わる?』

「あ、いや。今日はお前に話っつーか、相談っつーか。」

『お、懐かしいなぁ。お前の。』


 ヨッシーには中学時代、悩みや相談事をよく話していた。ヨッシーはいつでも真剣に、そして全力で応えてくれる。そういう彼に甘えていたのだ。そんな彼と私の間には圧倒的な差があることは分かっていた。


 ヨッシーに一通り話終えると、彼は低く唸り声を上げていた。

『--しかし、アキオもあのBBQん時にトキの元カノの話、聞いてたんだろ?ちょっと強引過ぎるわな。ただ--男からの意見だからアレだけど、俺なら--その子には素直に話すかな。駆け引き無しで。』

「ただ、本人から告白された訳でも無いんだぜ?」

『あ、そうか--。そーなー。ちょっと専門家にお聞きしますか--。なぁ、アヤコ--』

「あ、ちょい--。」

 私の反応に構わず、ヨッシーは既に耳からケータイを離している様子で、向こうでアヤコと何やら話している声がする。


『--あ、もしもし?トキ君?久しぶり---。』

 ヨッシーに代わりアヤコが出ると、アヤコはもうと話している、と言うよりもと話している---そういった雰囲気で居てくれていた。


『--なるほどねー。まぁ、この前チカちゃんの話聞いてたから、ズバリ言うよ?---まだチカちゃんの事が好きなら、そう伝えるべき。あの時言ったと思うけど、トキ君は自分をもっと大切にしていいと思うよ。それに---トキ君が教えてくれたの、忘れた?』

「俺の気持ち--?」

『うん。トキ君の気持ちはトキ君にしか分からないんだよ。それに従った行動なら、誰も文句言わないよ。』

 アヤコは出来の悪い弟や後輩を諭すかの様な柔らかな口調であった。


 アヤコに諭され、私は前を向く。

 後ろ向きな考えはもう捨てよう。


 ヨッシーとアヤコと話した日から3日後、私はユカリと二人きりで会う約束を取り付けていた---。


 その日は3限目で授業が終わり、12時前に大学を後にした。

 11月も中旬に差し掛かり、日中でも上着が無いとひんやりとした空気に身震いする。


 通過電車が通る度に、風をまとい吹き付け私の身を突き抜けて行く。電車に乗るとポツリポツリと、さほど多くは無い乗客の間を縫って、私は最後尾の車両へ移る。そこには乗客が殆ど居らず、数駅進むといよいよ私一人になった。


 ケータイを取り出し、電話を掛ける。

 そして、数コールもしないうちに彼女は電話に出た。


「--もしもし?あと20分で着くから。」


 駅の改札を出ると、街路樹が風に吹かれ葉を散らし、そのまま葉を舞い上がらせている。駅前の広場には穏やかな空気が漂っていた。


「--ごめん、お待たせ---。」

 ユカリが息を切らしながら駆け寄って来る。彼女はおそらくの誘いだと思っていたのだろう。のようなニットワンピースにボレロ姿は、それまでの彼女とは印象が違う姿だった。


「あのさ--。ちょっと歩きながら話して良いか?」

 私は敢えて話せる雰囲気を出すと、彼女はそれをかのような目で私の顔を見ていた。


「あ、いや大した事じゃないんだ---。」

「うん?」

 私は彼女に思っている事を全てを吐き出した。

 彼女は途中複雑そうな表情を見せていたが、私の話を聞き終えると、笑顔でこう言った。


「それでもいい--。トキ君がそれでも良ければ付き合って欲しい---。」


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 2013年5月


『へぇ、それじゃあ結構まともな恋愛もしてたんだ?』

 電話口で興味津々と言った口調でチカは、話の続きを聞いてくる。


「どうなんだろ?結局、1ヶ月もしないうちに浮気されて終わったんだけどな。」

 タバコに火をつけながら、過去の話のオチを話すと、チカは大袈裟に驚いてくれる。

『え?マジで?何で?』


「あぁ--何っつーか、一度彼女ん家に泊まった事があったんだ--。その時、彼女はしてたっぽいんだけど、俺が--拒否っちゃったんだよね。まだ早いだろって---。」

『あはは--トキらしい!私の後だったからんだ?』

「--かもな。でも、そんな事もあって、に考えようって思えるきっかけにはなったかもね。」


 それ以来、私はと言える相手を求めていた。友人もそれ以外に対しても、それは重きを置くようになっていた。


『なるほど--アンタ見た目がから内面は見えにくかったしね。』

「--どういう事だよ。」

『いいじゃん。ちゃんと伝えられるようになったから、今の彼女と長く続いてるんでしょ?--私との事もんだね。』

「--だな。」

『--ちょっとは否定してよ。』


 チカと話すと昔の事ばかり思い出していた。

 結末はキツい終わり方だったが、私が吹っ切れた出来事でもあった。


 形は違っていたが、チカにも同じような気持ちにさせてしまってた--だったら次は同じ轍を踏まない。良い経験だったと今なら思える。


『---じゃあ、次はいよいよとの出会いかな?』

 本当、コイツは人の恋バナばかり聞いてきやがる。

「あぁ--話すまで逃がさないつもりか?」

『当たり前じゃん?』

「あぁ--マジで次は長くなるぞ?何せ10年分だからな---。」


 10年振りに親しげに話せる様になった元カノとのは、失っていた10年分の距離を縮めていた---。


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