【番外編】会いたくて-中編-

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 2002年11月。


 ユカリと電話で話した次の日だった。私は、いつも通り大学に行き、空き時間には学生ホール外の喫煙所でタバコを吸っていた。


 たまにマイやゼミで同じクラスのタケオ達と当たり障りない話をする。そんな風に次の授業開始まで暇を潰していた。


「---あ、居た。」

 携帯を弄りつつ、数人と雑談していた時だった。ふと、声のする方へ顔を向けるとそこにはユカリとシュリ、そしてアキオの姿があった。


「は?お前ら--何してんの?」

 ある程度予感はしていたため、そこまでの驚きはなかった。

「んだよ、せっかくが遊びに来たのに冷めてんな。」

 アキオは私の隣に腰掛け、タバコに火をつける。


 初めて会った時以来のユカリとの再会だったが、メールや電話でやり取りしていたこともあり、互いに緊張やよそよそしさは無くなっていた気がする。


「おぉ、アキオ君じゃん。久々。」

 近くにいたタケオがアキオに気付き、世間話的な話をしている。その間、私はというとシュリとユカリに軽く詰められていた。


「--で?トキ君。元カノは今、何処にいるの?」

 シュリが先手を打ってくる。

「知らねぇよ--。だいたい、来るなら来るって連絡を--」

「連絡してたら逃げる--でしょ?」

 ユカリが更に詰めてくる。


 --確かに。面倒だからバックれては居たな。


「迷惑だった?」

 ユカリがポツリと呟く。

「迷惑では無いけど、正直、どう対応したら良いか戸惑いはする--かな。」

「それって迷惑ってことじゃん?それならそう言ってくれた方が親切だよ。私は会いたくて会いに来た。それだけなのに--。」

「--そう、か。すまん。」

「ごめん。困らせて--。ただ、声を聞いてて本当に会いたかったから--アキオ君が連れてってくれるって言ったから舞い上がっちゃってた。ごめんなさい。」


 二人のやり取りを遠目で見ていたシュリが会話に割って入って来る。

「まぁ--トキ君さ、ユカリの気持ちも分かってあげて?あの日から何も手につかないくらい、君の事を考えてるみたいだし。」

 シュリがそう言うと、ユカリは顔を伏せポツリと呟いた。

「--うっさい。別にいいじゃん。」


「--トキ、これからの授業、サボれ無いの?俺たちもサボって来てんだから、どっか遊び行こうぜ?」

 アキオはタバコを灰皿へ押し消し、こちらへと戻って来る。


「いや、次の授業は必修の奴だから無理。コレ落とすと2年に進級出来るか分からないし。」

「じゃあ、私たちも入れば良くない?」

 シュリがそう言うと、複雑な気持ちになった。


 次の授業は必修科目。大教室での授業で、出席率80%以上で確実に単位が取得出来ると言う、ある意味ラッキー科目。同じ学年、同じ学科の学生のほとんどが履修していた。


 もちろん--チカも履修していた。


 アキオでさえ会わせた事の無い。もし、鉢合わせたとしても、平常心を保っていれば大丈夫だと思っていた。


 教室に入ると、既に多くの学生が席を確保すべく入室していた。

 私たちは、扉から入って一番奥に当たる最後列の右側付近に席が空いていることに気付き、その席を確保した。そして、着席すると授業開始までの間雑談をしていたのだが---。


「--思った以上に人、多いな。」

 アキオが室内を見渡し呟く。

「あぁ、出席重視だからな。しかも、開始から10分以内までに着席していないと出席が無効になるから必然的に--だな。」

「へえ、あれから真面目に授業受けてんだ?」

「まぁ、あんまりグダってても何も良い事無いしな---。」


 ふと、自分達の居る席の逆側に女の子のグループが居ることに気付く。その中にチカが居る事に気付いた私は、即座に視線を外していた。それを知ってか知らずか、アキオもそのグループに気付いたらしい。


「へぇ、女の子少ないとは聞いていたけど可愛い子多いじゃん。特にあの--窓際の子--。」

 アキオが指したのはチカだった。


「アキオ、あんまりジロジロ見んなよ。」

 つい、こぼしてしまったのがいけなかった。

 やはり、私の態度に違和感があったらしく、シュリが食らいついて来た。


「え、もしかして、あの中にトキ君の元カノがいるとか?」

「ちょ、声がデカい--。」

 しまった--これは認めた様なものだ。


「え、どの子?」

 好奇心はユカリにも伝播し、3人から色々と質問攻めを食らっていたが、タイミングよく教授が入室してきたおかげで曖昧に誤魔化つつ話は中断していた。


 私としては、ユカリ達にチカを知られる事がマズいと思っていた訳ではない。あれから私は、極力チカの視界に入らない様に生活していた--その事が台無しになるのではと気掛かりだったのだ。


 授業中、ノートはきちんと取っていた。しかし、左手から遠く視線は感じていた。チカも私と同じ様にをしたかったとは思う。

 しかし、周りの人間がそれを許してはくれない。チカの取り巻き達がこちらを見遣ると、何やら耳打ちし合っている。自意識過剰かも知れないが、冷たい視線を感じれなくなるほど私も鈍感になってはいなかった。

 敢えて気付いていない、気にしていない、そういうことを考えれば考えるほど、人は気にしてしまうもの。

 私は、完全に動揺してしまっていた。


 授業が終わると、一気に疲れが出ていた。

 チカ達がまだ教室から出る気配を感じる前に、私は足早に教室を後にしていた。


「--なんだよ、トキ。もしかして、だったのか?」

 アキオは呆れ顔であった。私としては、呆れられるつもりは無かったのだが。


「--悪ぃ。でも、どうしてもなんだ。」

 言い表せない気持ち。

 チカと普通に話せたら多分こんな気持ちにはならなかった。


 その日は、それから授業が終わると4人で遊びに出たらしいのだが、完全に心ここに在らず。どこで何をしたのか、何を話したのか---全く覚えていない。


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 数日後、アキオから連絡を受けて自分の情けなさに嫌気が指す。


 あの日、あからさまに私の態度が事で、ユカリがずっと気にかけている--との事だった。


 その日、アキオには正直に話していた。

 チカとの関係がは、かなり深いダメージが残っていること。確かにアヤコと別れた時にも、精神的なダメージはあったものの、理由が明確だった。だから深い傷を負うことなく先に進めたのだった。


 ヨリを戻したい、とかそんなつもりは全く無かった。ただ、彼女から別れを告げられ、時間が経つほどに私は誰よりも自分自身を憎んでいたこと。

 そんな自分をだと言われても、その言葉自体、全く信用出来ない程に疑心暗鬼に陥っていたこと。


 全てを黙って聞いていたアキオが、やはり呆れた様子で冷たく言い放った。


『--あのさ、こないだBBQのときにアヤコとヨッシーが言ってたこと、お前マジで理解してねぇのな。結局--お前は格好付けてるだけだって。あー、マジでバカバカしいわ。』

「バカバカしいって--?だいたい、お前だって、シュリと仲良くなりてぇからって、俺を使ったんだろ。俺は別に---彼女とかそういうのもう、んだよ!!!」

『はい、出た出た。。お前の場合、単にビビってるだけだって。自分の気持ちを曝け出す事にビビってんだよ---。もういいや、もう何も言わねぇ。じゃあな。』

 そう言い残すと、アキオは電話を切っていた。


 アキオから言われたことも頭では理解出来ていた。だが、私自身がまだ気持ちを整理出来ていなかった。


「んだよ、そんな事--俺だって分かってるっつの---!!!!」

 当たりようのないモヤモヤをぶつける所も無く、ただ自分に出来る事を考えた。


 その結果、一つだけしか思い付かなかった。

 ユカリからも直接告白された訳じゃない。しかし、このまま中途半端な気持ちで思わせぶりな態度を取ることも彼女にとっては酷なこと。


 悩んだ結果、私はケータイの電話帳を探る。


 --ヨシト。それは、かつての親友、そしての現彼氏であるヨッシーだった。

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