episode 39 追放返し


 みんなが驚いた表情で僕に注目する。


 きっとここにいるみんなは、死刑と言う判決に納得してるんだろう。だからこそ、僕がストップをかけた事に驚いたのかな。


 審議官に死刑じゃなく別の刑にして欲しいと話したんだ。

 死刑なんて一瞬の痛みで終わってしまう。もっと苦しめて罪を償わせるべきだって。

 


「気持ちは分かるが、刑の執行は審議官が決めるもの。その要望には答えられない」


「審議官」



 ん? ウルが立ち上がり、審議官に話しかける。



「あたしは2955代目、地神柱の精霊ウルだ」


「何、精霊だと?」


「あたしの精霊力を感じ取れば分かるだろう」


「…………確かに! 精霊様の魔力、神聖なる力を感じ取りました! 貴方様は紛れもなく地神柱の精霊様! しかしこの様な所にご降臨なされるとは……」



 審議官は急に敬語になって畏まり、地面に平伏した。



「本来あたし達は人間のいざこざには関与しない主義だ。だが今回デリックが起こした悪逆非道な行いに黙っていられなくて来てしまった。審議官、このアステルの話を聞いてやってくれないか」


「む、むう……。偉大なる精霊様のご命令とあらば致し方ありませんが……アステル殿」



 僕に対しても敬語になっちゃったよこの人。



「しかし死刑よりも重い刑はないかと思いますが……」



 僕はこの日が来るまでに色々と悩み考えた。

 死刑なんて生温い。寿命を全うするまで苦しんで苦しみ抜いて罪を償って欲しい。そんな事を考えていたらパッとある話を思い出したんだ。


 僕がキングスナイトにいた頃、旅の途中で立ち寄った酒場のマスターから聞いた話。

 この世界には死刑宣告された大罪人が送られる島があって、その島に入ったら2度と出られない死よりも苦しい地獄の様な日々を永遠に繰り返すんだって。


 この〝永遠に繰り返す〟って例えじゃなく本当にずーーっと繰り返すんだよ。〝時の縛りを受けない〟と言う不思議な性質を持つ島だからここに入る罪人は全て永久禁錮となる。


 その為、自殺をする囚人も多いらしい。だけどこの島の中では死ぬ事が出来ない。時間の概念がなく死ぬ事も許されず、永遠に苦しみ続ける残酷な島。


 その名も、



「し……蜃気楼の監獄島への追放……ですか」



 僕は審議官にこの話をするまでただの噂だと思ってたんだ。

 だけど、急激に表情が強張り返答する審議官を見て本当に実在する事に僕も驚きを隠さなかった。



「いくら大罪人でも、その決断を簡単に下す事は出来ません。蜃気楼の監獄島は死ぬ事も出来ないまさに地獄です。罪を裁く者として非人道的な決断は……そんな簡単には」


「デリックの行いは、今回に限った事ではありません」



 ミンシャが立ち上がり、静かに口を開いた。



「未遂には終わりましたが、隣にいるリースの命を奪おうとしました」


「まだあるよ! あたし達を置き去りにして逃げた事とか、ウルが瀕死状態になってるのに無視して助けなかった事とか小さい犯罪も含めたらヤバいよこいつ!」


「リィィス! てめぇはまた訳の分かんねぇ事言いやがって!」


「アステルのスキルも奪い取ったようなもんだからね! マジできもい!」



 デリックの言葉を覆い被すようにぶつけるリース。



「し、しし審議官! ご、ご決断く、く下さい!」


「精霊が人間にこんなに頼み込むのは、それだけデリックと言う男が暴虐無人で危険極まりない男だからだ。それとアステルの言葉は3神柱の言葉として受け取れ」


「な、なんですと!? そんなに凄い方なのですか? アステル殿は……一体何者……」


「それはあんたの知るところではない。今の説明で理解出来たはずだ審議官」


「申し訳ございません! そう言う事でしたら、アステル殿! 貴方に今回の刑罰の決定権を与えましょう!」



 ありがとうございます審議官。ありがとうウル。


 僕は幼馴染みのデリックに理不尽にも、パーティー追放を言い渡された。スキルを奪われ、闘技大会じゃ事実無根な事実で観客のみんなを騙した。僕を悪者にしようとした。そして今回国王殺害の犯人に仕立て上げ、危うく死刑になるところだった。

 極め付けにリースの命を奪い取ろうとした件。これまで僕は何度も君に手を差し伸べた。そして何度も手を振り払われた。

 

 僕の甘えがリースを危険な目に遭わせたんだ。


 今日まで自分勝手にやって来たその代償を受ける時。


 今度は僕のターン。追放返しだ!!


 デリック・ヴィルドールを蜃気楼の監獄島に追放そして、



「え、えい永久き、禁錮の刑と、す、する」



 今回神威フォームでここに来なかったのは、僕自身の言葉で伝えたかったからなんだ。あの時の追放を言い渡された姿でね。

 デリックをこの場から退室させる為2人の兵士に腕を掴まれる。



「おいふざけんな!! い、嫌だやめろ!! おい、アステル! 俺の幼馴染みで親友だろ? な? 昔から仲良くやってたじゃねぇか……親友をそんな地獄みてぇな所に追いやってもいいのか? いや出来ねぇはずだぜアステル。お前は優しい人間だ」



 この場を逃れる為に心にもない言葉で必死に取り繕って、惨めすぎるよデリック。以前の僕ならもしかしたらその言葉が響いていたかも知れない。


 だけど今の僕は全く何も感じないよ。



「頼む! この通りだ!」



 兵士を振り払って土下座をする。



「行きたくねぇ! アステル頼むぅ!! 死ぬ事も出来ねぇなんてとんでもねぇ地獄じゃねぇか……なぁアステル! 心を入れ替えるからよ! 助けてくれ! な? アステル! 俺達まだやり直せるはずだろ? 同じ村で育った仲じゃねぇか!」



 僕は彼のこの言葉に怒りのスイッチが入ってしまった。

 無意識に神威フォームを発動し、



「だったらどうして断ったんだ……」


「あぇ? 断ったって何がだよ」


「大量に発生したオーガの討伐依頼、クレイドさんの依頼をどうして断ったんだよ!」


「あ、あれは……忙しかったし、きゅ、休暇を取ってたんだよ」


「クレイドさんも助けて欲しいと懇願したはずだ。君は聞き入る事はしなかった。200万キャルトと言う大金をふっかけて……」


「じょ、冗談に決まってるじゃねぇか。ちょっとした軽い遊びだよ」


「冗談で済む話じゃないだろ!!!」



 僕の大声は審議の間に響き渡り、静寂が支配する。



「クレイドさんは今行方不明だが、オーガに殺されている可能性が高い。サリアさんの気持ちを、家族の気持ちを考えた事があったか!?」


「分かった! すまなかった!! そ、その家族に金をやる! いくらだ? 100万か? 200、い、いや500!! そ、そうだ1000万で」



 バッキィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!



「あぶぉぉぉぉぉ!!!?」



 怒りの余り顔面を殴ってしまった。



「赦さないって言っただろ。後悔しながら一生苦しみもがけよ。勇者デリック」



 僕はそう言い放ってこの部屋から出る。



 これで彼の被害に遭う者はいなくなる。蜃気楼の監獄島で訪れる事のない終わりを待ちながら罪を償え。

 



 第2章 追放返し 完

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追放された僕の下に女神が舞い降りた〜剣聖スキルを勇者に捧げたら、ただのデブは不要と言われ追放されたが、女神に結婚を申し込まれ、神として生きて行く事になりました。今度は僕のターン、追放返しだ〜 またたび299 @sion24st

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