episode 38 再審、そして再判決
リースを助け出せるかも知れないと手繰り寄せた希望が見えた瞬間から何度突き刺したか分からない程、無我夢中で繰り返していた。
だけど次の一撃で心臓を貫いた時、デリックの体にリースの姿が重なって見えたんだ。
確かにリースの魔力を感じる。魔力を感じるって事は……生きてる。やっぱりリースは生きてるんだ。
「おごぉう……ぅ」
「リース待っててくれ! 必ず助け出すから!」
「アステルーー!!!」
ミレイネスが遠く離れた所で僕の名前を叫んでいた。その近くに他の3人の姿も見える。そうか、僕の放つ神気の圧力で近寄れないんだ。周りを見るとボコボコと出ていた砂漠の山が遠くの方まで見通しが良くなるぐらい綺麗な真っ平。
砂漠の国では珍しい曇りの空、そしてポツポツと雨が降って来たと思ったら雪に変わった。ギガドライブでレベル3の神気を解放した影響で天気が狂ってるんだ。ほんの15秒程度の解放で……。
普通に考えたらあり得ないこの状況に、感情が落ち着いて冷静さを取り戻すと、自動的にスッとギガドライブが解除された。
「で……でめ……ぇぇ……。う……ぷ」
「リースを、返せ!!」
リースに対する生きていてほしいと言う思い、そしてデリックに対する怒りを込めてもう一度刃を突き刺すと、デリックの背中から黒い人型をした影がズンと飛び出して地面に落ちた。
根拠はないけど直感で思ったんだよ。あれはきっとリースだ。生きてる理由なんてどうだっていい。
刀を引き抜いて鞘に仕舞うと、すぐに倒れてる影へと駆け寄る。
「大丈夫かい!? リース!!」
くっ。この影がリースの体を包んで邪魔をしてるんだ。
霊破流影刃で影を跡形もなく消滅させてから、ゆっくりと体を起こす。間違いない、見覚えのある黒髪のお団子頭だ。
「よかった……」
すぐにミレイネス達を呼び、リースを含めみんなを安全な所まで避難させた僕は、再びデリックの前にやって来る。
さっきまで瞬時に回復していたのに、今は暗黒闘気も消えかかった状態で僕を邪魔する力も今のこいつにはなかった。
「はあ……はぁ……はぁはぁ……」
これで終わった訳じゃない。キッと強く睨みながら神威刀を引き抜いて構えを取るけど、デリックはまともに立っていられずフラフラだ。だけど、
「僕はお前を赦しはしない」
「い、い痛ぇ…………ち、ちか……ら……が、制御…………でき……ねぇ……。た……たのむ……。たすけ……て……く……れ……」
しっぺ返し。生身の人間が得体の知れない邪悪な力を使ったら身を滅ぼしてしまうのは当然だ。暗黒闘気のコントロール力を失って逆に飲み込まれようとしてる。自業自得だよ。
「助けろだって? ふざけるな! 罪もない者を殺して、僕の大切な仲間の命を奪おうとした! 赦せない!」
「……アステ……る……たの……む…………たの……」
何を勝手な事を言ってるんだこいつは。こんな最低な奴は死んだ方がいいんだ。君が生きていたらみんなを不幸にする。
死んで当然な人間。だけどこのまま楽に死を迎えさせていいのか?
助けろと言われて情が芽生えた訳じゃない。思ったんだ。デリックが1番苦しむのは、生きたまま罪を償わせる事だって。
神威刀を両手で握り頭上に掲げた。瀕死状態になってる今なら暗黒闘気を吸い取って無力化出来る。
僕は静かに瞑想し意識を集中する。
シュン! シュンシュン! シュンシュンシュン!
浴びたら呪われそうな真っ暗な煙が刀身に吸収されていくとズーンと重くなってくる。この重さに耐えられない者がデリックのように力に飲み込まれ支配されるんだ。
全ての暗黒闘気が神威刀に収まり、やがて重さも感じなくなった。つまり力を制御出来たって事だね。
気を失って倒れたデリックからは一切何の力も感じない。力を受け入れる器も全てエネルギーとして暗黒闘気と共に神威刀の中に封印した。だからどんな力にも目覚める事もないし、誰かに与えられてもその力が宿る事もない。
そう言えば、ずっと疑問だったけど一体誰が力を与えたんだろうか。
ミカエルの話を聞くと、ファーシルっぽい気がするけど神気を感じない。
この場に現れないところが賢いな。
いや……今考えるのはやめておこう。まずはデリックだ。
「君は人間として超えてはいけない一線を超えてしまった。本当は僕の手で断罪してやりたい気持ちでいっぱいだ。だけど、それもまた甘いと思ったよ。やはり人間として君は裁かれるべきなんだ。死ねるなんて思わないでくれよデリック」
「アステル! 何してるんだ!?」
独り言のように僕が倒れてるデリックに話しかけているところにウルがリースを肩に担ぎながら、みんなを引き連れてこっちに向かって歩いて来ている。
「まさかトドメを刺さないつもりなのか?」
「デリックは殺さないよ」
「何故だ? アステル、あんたまさか幼馴染みとしての情が残っているんじゃないのか? 悪いが考え直すべきだ」
「ううん違う。もっと辛い目に遭ってもらうんだ」
死なんてなんの償いにもなってないんだよ。死ぬのは一瞬の痛み、でも生きている事はそれだけで辛いんだ。
だから喜びを喜びとして感じられる。幸せだと感じられる。
デリックには長い人生を苦しんで生きて罪を償ってもらう。
その話をここにいるみんなに話した。
◆
それから1週間が経った。
アルヴァニア城、審議の間で再審が行われ、証言台には
たった1週間しか経っていないのに10歳ぐらい老けて見えたのは、色々あって精神的に疲れているからって言うのもあると思うけど、きっと僕が暗黒闘気と一緒に器も取ってしまった事が原因だろうな。
オラオラ言ってた面影はなくなってしまったが、振り返った時に僕を睨んだ時のあの目つきは、以前のままだった。
再審は順調に進行して行き、国王殺害した真犯人がリューインである事が裏付けられた。
リューインの母親のディルナさんが証拠として提出した遺骨を解析して
ディルナさん曰くリューインは元々〝スキル無し〟だったらしく、持っている事に驚いていた。
女神により与えられたのかと審議官は考察するが、女神はいない。ミレイネスは今人間で天聖の力を失ってしまったんだから。
「何れにしても、リューインが〝チェンジ〟と言うスキルを持っていた事が分かった。これは手で触れた相手の姿にそっくりそのまま変化させると言う能力。凶器に使われた細剣も本物そっくりに変化出来る」
触れた相手に変身出来る能力か。
ん? 触れた相手……僕ってリューインに触れられたっけ?
「あ! 確かに!」
え、リース? 確かにって、何か思い出したの?
僕が疑問を持った顔でチラッと見ると、
「ほら! アステル握手したじゃん! よろしくって」
「わたくしも覚えています! リューインの方から握手を求めていましたね! あの時にアステルの擬態能力を得たと言う訳ですね!」
みんなよく覚えてるな。まあでも握手した気がするよ。
それよりも僕はニコニコ笑ってた事が少し不可解だったんだよな。
「そして、兵士の記憶から事切れる直前にデリックと思わしき人物がリューインの名前を呼んでいる事も確認済みでこちらもデリックが犯人としての大きな証拠となる。よって再審の結果、アステルは濡れ衣を着せられていたと言う事実が正しく、デリックとリューインの2名が結託し、国王及び6名の兵士を殺害した可能性が極めて高い」
「待ちやがれ! お、俺はやってねぇ! 水色の髪なんて探せば他にもいんだろうがよ!」
「水色の長髪で、謁見の間に簡単に侵入出来る人物。これなら挙がって来る候補はデリック・ヴィルドールただ1人」
「実際にやったのはそのトカゲだろ! 俺が謁見の間にいて名前を呼んでも俺がそいつに命令したなんて証拠はねぇだろうが! 決めつけんじゃねぇよ!」
「証拠か」
机に両肘をつき、手を組んで顎を乗せた審議官はそう言うと、静かに目を閉じる。
「そうだよ! 証拠だよ! 俺がリューインって名前を呼んだだけでそいつと結託してるなんて言えねぇよな!? 名前を呼んだだけなんだよ! ああ? 審議官さんよぉ! 濡れ衣を着せられてんのは俺の方だろうが! ああ!? ゴラァ! 証拠を出せっつってんだろうがぁぁ!!!」
「いやぁ〜デリックさん、兵士6人も殺しちゃいましたけど追加料金いただけませんかね? 国王1人のはずが6人ですからね。お願いしますよ、私がいなけりゃ実現出来なかった訳ですしね」
と、急に淡々と話す審議官。
「なに!?」
「これはリューインが実際にデリックとやり取りした会話だ。遺骨から一部だが記憶を抽出する事に成功したのだ。そして貴公はこう答えた〝分かった、追加料金は払ってやる〟と」
ディルナさんが持って来たリューインの遺骨から記憶を取り出して見たって事か。
そして審議官は実際にその記憶を僕達にも見せてくれた。審議官が話したまんま、記憶の中のリューインが会話してる。
「嘘だ! こ、こんなのデタラメだ! 審議官、そこのディルナは実はアステルとグルだ!! このババアが全ての元凶で」
「死人の記憶は改ざんする事が出来ない事は貴公も知ってるだろう。無論この記憶は真実である」
「違う!! ふざけんなよ!!」
「デリック・ヴィルドール。殺害を指示し、国王と兵士6名を殺害し、さらにアステル・ランドベルクを濡れ衣とした事は非常に罪深い。よって死刑をここに言い渡す」
「おいちょっと待て!! 俺は無実だ!! もう一度審議しやがれぇ!!」
「以上で閉会と」
「ま、まま、待ってく、くく下さい!」
僕は立ち上がり傍聴席から声を飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます