episode 37 手繰り寄せる希望


「はああ! レグゾード!!」



 ウルの精霊術、燃え盛る大火球を投げ飛ばす。



「精霊術か……温い」



 デリックはサッと飛び上がってかわす。



「貴方は、その存在自体が万死に値します! これで浄化されなさい! 神聖なる斬撃の雨ホーリーサウザンドレイン!!」



 クイックフェザーで素早くデリックの頭上に移動し、神剣セレストレーヴァを振り下ろすと、白く輝く無数の線が周りに飛び散ったかと思えば、デリック一点に向かって集まって行く。



「開け! 我が魔力の扉!! ブレイブソウル!!」



 僕の後ろから聞こえて来たのはセラの詠唱。

 あれは攻撃力、魔力、攻撃スピードを増大させる増強魔術バフだ。

 ミレイネスが放った光の線が太くなり、スピードも増して威力が増大された。



 ズバババババババババババババババババ!



 一つの光線が命中する度に激しい爆発が起こる。それが何百何千回と次々連発する。

 ミレイネスもデリック同様に魔力から変換して神気を使ってるんだけど、彼女の場合はその魔力量が通常の人間では扱えないぐらいの膨大な量を保有出来る。だからある程度安定した神気を発揮出来る。

 ただ、そんなミレイネスでも長時間は神気を使っていられないから無茶はさせられない。



「開け! 我が魔力の扉!!」



 今度はミンシャの詠唱。セラよりも更に後方からバチバチと雷の魔力を体に溜めていた。ミレイネスの攻撃に合わせて追撃する気だな。よし、タイミング的には絶妙だ。



「スパークボルト!!」



 両手で握った杖をデリックに向けると、全身から杖を伝って電撃が音を立てて放出された。



 バリバリバリバリバリバリ!!



「そんな攻撃なんざ通じねぇ」



 全ての攻撃を禍々しい暗黒闘気で掻き消して、空に浮かぶミレイネスに向かって今まさに瞬間移動しようとした時



「させるか! ガドルフ!!」



 ズガガガガァァァァァン!!



 ウルが地属性の精霊術を放ち、デリックの足下の地面から土で出来た突起物が突き出す。



「なに!? ぐがぁ!!」


「ミレイネス!」


「流石ですウル!」



 ミレイネスが煌めく神気に包まれ、神剣セレストレーヴァを高く掲げた。



「ほんの少しだけでいい……ほんの一部でいい。天聖の力を……」



 ヒィィィィィィィィィン!!!!!



「行きます! 至高に輝く女神の抱擁マリアエンブレイス!!」



 青白く輝く神気を体から放ちながらミレイネスはセレストレーヴァを引きずるようにして構え、体勢を崩したデリックに向かって急降下する。



 ズッッッバァァァァァァァァァァァァァン!!!!!!!!



 凄い。

 抜刀技のようなミレイネスの剣技はデリックの体、右半分を斬り分けた。

 地面に落ちた腕や足は黒い煙となって消えた。



「やったか!」



 と、言いながらパッとジャンプすると、息を切らすミレイネスの側に着地した。



「ぐおぉぉぉぉ!!!」


「え!?」


「おい……嘘だろ……」



 さ、再生した……。



「てめぇら……ちょこまかウゼェェェェェんだよぉぉ!!!」



 ギュルギュルギュルギュル。


 あいつが手に作り出したのって……リースの時の黒玉だ!? まずい!?

 黒玉が4つに分かれミレイネス、ウル、ミンシャ、セラにピュンと飛んで行く。あれに捕まったら……。

 


「そうはさせないぞ! デリック!!!」



 これ以上仲間に何かしてみろ。僕は君を絶対に許さない。

 オーバードライブを発動させて神威刀にかかったシールドを解除する。


 心の片隅にほんの少しだけ幼い頃の彼がいる。またあの頃に戻って欲しい。そんな甘い考えがずっとあったんだ。リースがあんな事になるまでは。


 だけど、その甘えのせいでリースが犠牲になったのなら僕の過ちだ。

 そして今、また同じ過ちを僕は繰り返そうとしていたんだ。

 ダメだ。もう2度とリースのような犠牲者を出してはいけない。



「うおぉぉぉぉぉー!!!!」



 縮地で黒玉を追いかけて、1つずつ切り去る。



 スパァァン! ザシュ! ザシュ! スパァァァァン!



「アァスゥテェルゥゥ!!! てんめぇぇぇ!! どこまでもイライラさせるクソ野郎だなぁぁ!!」


「同じ人間を殺したんだぞ!? 君に良心はないのかぁ!? リースにあんな酷い事を……」



 怒りと悲しみと言う全く別の感情がそれぞれでいっぱいになって苦しいんだ。リース……いつも僕達に元気を振りまいて笑顔だった。躊躇いもなくあいつは噛み潰した。



「あ? 何言ってんだクソ野郎。リースも、他の女もみんな俺の駒なんだよ。俺のもんを俺がどうしようがてめぇには関係ねぇだろうが。ああ? 心配すんなよアステル。そこにいる銀髪のねぇちゃんも、狼女も上手く調理してやっからよ。今度は誰が悲鳴を上げんだ? 女全員食ったらアステル、てめぇが奏でてくれんのかよ!」

 

「そんな事させる訳ないだろおぉぉぉぉー!!!」



 ギュイィィィィィィィィィィィィィン!!!


 青白く輝く神気の密度がさらに高まり、僕の神気は紫色に変わる。

 これはレベル3の神気。強大な余りこの世界の自然が破壊されてしまう。人間界で解放してはいけない危険な力を、僕は生まれて初めて感情のままに解放してしまったんだ。



「ギガ……ドライブだぁぁぁぁ!!!」


「おごぉああああああっ!?」



 純粋に今殴り飛ばしたい。その感情は怒りだ。気づくとあいつの顔を拳で抉っていた。殴った頬に暫く紫の炎が残る。



「いっっっっでぇぇじゃねぇかぁぁぁ!!!」


「このぉ! このぉ!! このぉぉ!! このおぉぉぉー!! デェェェェリィィィィィィィィィッッッック!!!」



 ドゴォォン!! ズガァァン!! バキイィィッ!! ドガァァァァァン!!!



「ぶぉ!? あごぇぇ!? いぎゅぁ!? うぐぇあぁぁ!!?」


「だあぁぁぁぁぁぁ!!!!」



 神威刀を思い切り突き刺す。



 ドシュゥゥゥゥゥゥゥゥッ!


 レベル3の神気を吸って紫に鈍く光る神威刀はデリックの心臓を貫いた。



「あ……げ……ぁ……」



 甘えを持って臨んだデリックとの戦いに自分自身が許せなかった。僕がこいつに、こんな奴に期待したが為に……くそぉ。

 どんなに嘆いても彼女は戻って来ない。



 ドシュッ!! ドシュッ!! ドシュッ!!



「ぐ……い……がぁぁ!? ぁ……ぁあ!!」



 リースは恐怖を感じたんだろうか? 痛みを感じたんだろうか? 返せ、リースを返せ、そんな事を思いながら何度も何度も突き刺していると、デリックの表情に変化が現れる。



「うぼぉ!? お……ぉ……ぉぉ」



 心臓を何度も突き刺しているのに死なない事には驚いたが、恐らく暗黒闘気の力で驚異的な回復力を得ているんだろう。


 ん? さっきからデリックの顔が苦しそうだ。

 何かを吐き出そうと何度も嘔吐く。



「ばぶぉぉぉぉぉぉ!!!」


「え!?」



 今、微かに……感じた。



「おぉぉぶぶ……ぶおぉぉぉぉ!!!」



 まただ。デリックが嘔吐く度にリースの魔力を感じる。

 それもさっきよりも鮮明に。まさか……まさかリースは。



「まだ生きてるのか!? リース!!」


「おえぇぇぷ……ぶぶぶ」



 リースを取り戻せるかもしれない! 僕はこのチャンスを見逃さなかった。



「リィィスを!!! 返せぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!」

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