episode 36 追い詰めた先に


 デリックの渾身の一撃、超絶グランドブロウ。


 確か闘技大会で〝超絶グランドスラッシュ〟って剣技を使ってた気がするけど、あれの格闘バージョンだ。

 高めた魔力を剣一点に集める事により魔力自体のレベルを飛躍的に上げてそれをぶつける正直よくある技。彼が編み出したと言うよりは魔力の基本的な使い方の一つ。だけど魔力から神気に変わった事で威力は何千倍にも跳ね上がる。


 青く燃える炎の様に神気を拳に集めた一撃は確かに強烈な一撃だっただろうけど、この体に命中するよりも速く僕の技が命中した。

 

 スパアァァァァァァーーーーーン!!


 デリックは、魔力を変換して神気を生み出してるから魔力の流れる経路、力脈を一時的にでも断てば神気が使えなくなる。

 霊破流影刃は力脈だけを捉え断絶。デリックの肉体は傷つけずに体から神気が消え去った。



「な…………んだと!?」



 体勢を崩し地面に片膝をついた隙に、縮地を使ってデリックの真正面に瞬間移動し刃先をその顔面に向ける。



「ぐ……俺の力が……!?  また俺は負けたのかぁ!?」


「誰にその力を与えられたんだデリック」


「なんでなんだ!? なんでこんな無能野郎に俺が負けんだよぉぉ!! くそぉぉぉぉぉー!!!!!」


「諦めなよデリック! 往生際が悪いよ!」



 離れた所からリースが大声で話すんだけど、そんな逆撫でするような事言わなくても……いや、そうだよ。みんなデリックに裏切られて腹を立ててるんだよね。



「デリック、あんたさっきリューインは代償を払ったって言ってたが、あれはどう言う意味なんだ?」



 と、ウルが問う。それは僕も気になっていた事だ。



「……へ、そんなに知りたきゃ力尽くでやってみたらどうだ? ああ? メス犬が!」


「もう勝負はついてるじゃないですか。それ以上まだ醜態を晒すんですか?」


「ああ!? おいミンシャ、てめぇみてぇなクソビッチ女が何俺に意見垂れてんだ? デブが痩せたら即乗り換えか? どんだけ尻軽なんだよ」


「そんな理由でアステルと一緒にいません!! アステルは、貴方みたいな傲慢で女を顔と体でしか見ていない変態で最低な人間ではありませんからね!」


「も〜ミンシャったら、傲慢で変態で最低だなんて本当の事言ったらデリック可哀想……」



 ミンシャの言葉にセラが被せる。ん? セラのこのセリフって僕をパーティーから追放する時にも聞いた気が……。



「俺は神になったんだぁぁぁ!! 勇者よりも更に強い存在になったんだぁぁぁ!!!」



 暴言を撒き散らしながら、力任せに殴りかかって来た。

 神気も魔力も何の力も発揮していないただの通常攻撃がまともに腹部に入る。


 ドガッ!!


 だけど全くのノーダメージ。逆にデリックの拳の方が痛かったんじゃないか?



「なのに、このザマはなんだ……」



 そう言いながらドサっと力無く両手両膝が地面についてしまった。うん……? 今一瞬何か火花みたいに……この感覚……。



「キャハハハ! デリック〜ほんとざまぁだよ〜! あんたを慕ってた美しい仲間達は愛想を尽かされ、あんたが雑魚だクソだ言ってた幼馴染みには力でも気持ちでも男としても、全部負けてんだよ!」


「リース!」



 何故か咄嗟に僕はリースの名前を呼んだ。

 分からないけど、刺激するような事を言わない方がいいと何となく感じたんだ。彼の中の何かを呼び起こしてしまいそうな……何かは分からないんだけどさっき一瞬だけ物凄く嫌な予感がした。それが気になって気持ちが悪い。



「俺……は、俺は……全てを捨てた……勇者や剣聖……スキル無しにまでなって得た力なんだぞ…………」


「アステル交代して。置き去りにしたあの時の分、こいつに返したい」


「そうですね、私も1発借りを返したいです」


「俺の為に死ねとまで言われたんだもん。私も1発殴らないと気が済まないよ」



 リース、ミンシャ、セラは僕の前に出て未だ立ち上がらないデリックを囲う。



「ちょっと3人共待つんだ!」



 何かデリックの様子が変だ。



「俺はこの世でたった1人しか選ばれない勇者になった。そしてクロノから神の力をもらった。結局、どの力も俺が求める力じゃなかった……。勇者も神も俺の偉大なる才能の前では何の意味も成さない……」


「キャハハ! はあ〜? あんた自分の実力も分からない? 才能なんて何処にあんの? だっさぁ〜!」


「アステルの言う通り愚か者ですよデリック。何かのせいにしている内は偉大なる才能なんて身につきませんよ」


「私達の事完全に無視だね。何も言い返せないから現実と一緒で直視出来ないんだ」



 中々棘のある言葉だこと。だけどそれ以上はもう刺激しない方がいい。

 僕の口からその言葉が出ようとした時だった。



「そうか……簡単な事だったんだ。所詮勇者も神も、俺より下だったと言う事。俺自身が自分で定義づける必要があったんだ」



 さっきからデリックの言動に違和感がある。それに落ち着きを取り戻してる。それが余計に気味が悪い。



 ドオォォォォォォォォン!!



 なんだ……急にデリックの体から禍々しい圧力が。

 力脈断絶は有効で魔力や神気は使えないはずなのに、あいつの中から溢れる力はなんなんだ……。



「俺の力の源、そもそも正義や光に属するもんじゃなかったんだ。暗黒……そうだ、俺のこの力、才能スキルは暗黒闘気とも呼ぶべき力」


「暗黒闘気? キャハハ! あんた何言ってんの? そろそろ1発ぶん殴るから早く立ちなよ」


「うるせぇハエだな……食っちまお」



 なに!?



 ギュルギュルギュルギュル。


 え? デリックの手から黒い玉が出て来たかと思ったら蜘蛛の糸のようにパッと一瞬の内にリースに絡みついて黒い塊になってしまった。

 余りにも突拍子も無く、予測が出来ない事態に流石の僕も驚き過ぎて口も動かせない。


 何かしなきゃと神威刀を構えようとした時、黒い塊になったリースをデリックは、



「な!?」


「た、た、たべた!?」


「リースさん!? リースさぁぁん!!? いやぁぁぁー!!!」



 素早く黒い塊を食い終えると、リースの魔力が消えた。

 ミレイネスが悲鳴を上げるのも分かるよ。ここにいるみんな、信じられない現実を目にしたんだから。



 シュン!


 消えた?



 バッッッッキィィィ!!!



「あがぁぁぁ!?」



 何だ今の攻撃は……。吹き飛ばされて気づいたら地面に倒れてる? 縮地のように空間を繋いで瞬間移動したのか? 全く追えなかった。

 デリックの身に一体何が起こったのか分かってないけど、確実に言える事は神気を使っていた時よりも遥かに強い。

 しかも、魔力から無理やり変換してる様子もなく、極々自然にあの力を使い熟してるように見えた。断絶した力脈も修復されてるみたいだし。



「い、今のは……リースの……技」


「そうだセラ。リースを食ったらこいつのスキルを使えるようになっちまったみてぇだ」


「デリック! 貴方は何と言う事を……!?」



 まずい! ミンシャとセラがあの黒い塊にされてしまうと思った僕は、オーバードライブを発動しながら神威刀を引き抜いてデリックに斬りかかった。


 ガッ。



「うぐぐ……!」


「どうだアステル。今度の俺はその程度の攻撃じゃ倒れんぞ?」



 なんとデリックは、オーバードライブ状態の僕が繰り出した神威刀の一撃を受け止めたんだ。



「なるほど、今の俺なら見えるぞ。てめぇ剣にバリアかなんか仕込んでやがるな。なんでわざわざ威力を落とすような真似をしてんだ?」


「さあ、何でだろうね」


「まだそんな冗談を言える余裕があんだな。これでも食らっとくかぁ?」



 と、言いながら背中から影の様なものを出すと、その影は勢いよく僕目掛けて飛んで来た。

 オーバードライブ状態の僕でも見極めるのもやっとで、ギリギリのところで縮地で退く。


 あの影のような攻撃。まるで意思を持ってるかのように襲って来たぞ。

 暗黒闘気……なんなんだあの力は。



「アステル! 皆で戦いましょう!」



 そうだ、そうだね。ミレイネスの言う通り、ただ立ってここにいるより戦闘に参加して動いていた方が、デリックの動きも掴みやすいしみんなを守りやすいし〝王の聖域〟で底上げしてデリックの隙を作ってもらえれば行ける!



「言わなくても伝わったみたいだなアステル! 流石あたしの旦那になる男だ! そう言う事だから」



 と、ウルは火の精霊力を全開にして全身を炎で包む。



「まずはあたしとミレイネスで、あいつの戦闘パターンを引き出してやる!」


「アステルに多くの情報を与えられる様、尽力致します!」


「私は後方から特大の威力のスペルを準備しておきます」


「セラ、傷ついた仲間をなるべく早く回復出来るような位置で待機しておいてくれるかな?」


「了解。なるべく長く増強魔術バフを入れるね」



 1対5なんてフェアじゃない。ううんそんな事考えなくていい。リースが死んだんだ。これは試合じゃない、生きるか死ぬかの戦い。



「なるほど、いいだろう。てめぇら全員食ってやるよ」


「そうはさせない! もうこれ以上は誰1人として死なせやしないよ!」

 


 僕の合図で、ウルとミレイネスが左右に分かれてデリックに向かって走って行くのだった。

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