episode 35 力脈を断つ
デリックと対峙して驚いた。
勇者の力を感じない。聖剣も装備していないんだ。
そしてこの力の波動は……神気。
ミカエルの言った通り、ファーシルらしき者の介入で力を与えられたんだな。
ただ、分からないのは勇者の力を感じない事。
そう言えば剣聖も感じないな。普通に考えれば
「くっくっく、驚いているようだな無能デブ。俺の力によ」
「勇者のスキルを手放したんだね……君だけが持つ唯一のスキルだったのに」
「あんなクソ弱ぇ力なんかあっても何の役にも立たねぇ。俺は神になったんだよ」
「愚か者だね君は……。勇者の力が弱いんじゃない。修行を怠った君が弱いんだ」
「ベラベラ喋ってんじゃねぇぇよ!!! 今度こそぶっ殺してやるからなぁぁ!!!」
パッと一瞬消えたかと思ったら直ぐに目前に迫って来たデリック。
確かに神気を使って以前とは比べ物にならないぐらい動きが俊敏だった。
飛び膝蹴りを僕の胸元に目掛けて繰り出して来たが、鞘で受け止める。
その時、ぶつかった衝撃が辺りに飛び散ってミレイネス達が衝撃に耐えながら戦いを見守っている事に気づいた僕は、すぐに彼女達の体にシールドを張る。
「みんな! シールドを張ったけど激しい戦いになりそうなんだ。もう少し離れててくれ!」
「分かりました! アステル、お気をつけて……」
心配そうに見つめるミレイネスに僕はコクっと頷いて微笑む。
「よそ見すんなよゴォルラァ!!!」
ドガッッ!
「う……ぐっ……」
拳が鳩尾に入った。仰け反ったところに連続的な蹴り、そのまま流れる様に回し蹴りで僕の体は宙に浮かぶ。
浮かんだ隙も見逃さなかったデリックは、僕の足首を掴むと地面に叩きつけた。
「がはっ……」
「おいおい、こんな程度で終わるんじゃねぇぞ。まだまだ今までの借りを返しちゃいねぇんだからよ」
いちちち……神気を纏ったデリックは想像以上にパワーアップしてる。普通に回避しようと思ったけど間に合わなかったな。
何発か彼の攻撃を受けてみて分かった事があるんだけど、僕と根本的に神気の使い方が違ってる。
神気は魔力の上位互換じゃない。体内のエネルギーと外からマナを取り込む事で魔力が作られるのに対し、神気は魂そのものをエネルギーとして作る。
デリックは魔力の使い方で神気を無理やり使っている様に感じたんだ。
勿論そんな事普通は出来ない。多分、その力を与えられたんだな。
「ほら立てよアステル。くっくっく」
「どうして国王を殺したんだよ。僕に恨みがあるなら直接僕に復讐すればいいじゃないか」
「俺も最初はそのつもりはなかったがな。運命的な出会いをしちまったんだよ」
「……リューインか。やっぱりリューインの擬態能力で国王を殺したのか」
《アステル、わたくし達の調べでは、リューインはもう……》
と、テレパシーでミレイネスの声が届く。
「デリック、まさかリューインを殺したのか? どうして?」
「あ? 確かにあいつは死んだみてぇだが、あんな便利な奴俺が殺す訳ねぇだろうがよ。あいつは代償を払ったんだよ」
「代償?」
「んな事はどうでもいんだよバカが!! それよりてめぇの心配をした方がいいんじゃねぇか? うるるるあ!!!!」
また素早く攻撃を仕掛けて来た。だけどさっきとまるっきり同じパターン。有効だと思ったんだろうけど、僕は2度も食らわないよ。
サッサッサッと連続的な攻撃を全てかわし、最後の攻撃の隙をついて背後に回り、鞘を使って足払いを繰り出す。
デリックは派手にお尻から地面に転がった。
「いぐぁ!?」
「その力は誰に与えられた? 人間が使い熟せる力じゃないんだよ。そんな使い方してたら身を滅ぼすよ」
「に、……んげんが……使い熟せる力じゃねぇだぁ? てめぇだって使ってんだろうがよ。無能デブに使えて俺が使えねぇ訳がねぇんだ!!」
「違う僕は……」
人間じゃない。でも彼には言えなかった。
言っても信じてもらえないと言うのもあったけど、特別な存在になってしまった事を素直に打ち明けても、彼のプライドを傷つけるだけだから。
国王を殺し、僕に濡れ衣を着せた最低最悪の奴だけど、心の何処かでほんの少しだけ〝幼馴染のデリック〟が残っている。
立ち上がって僕から距離を取り、神気を高め出した。
「うおぉぉぉぉーーー!!」
「くっ……」
神気の波動で地面が揺れ、デリックを中心に竜巻の様な吹き荒れる強い風が砂漠の地形を真っ平に変えてしまう。強烈な神気だ。
「デリックやめてくれ! それ以上力を上げると君は……」
「ぐははは! すげぇ……すげぇぜ!! こんなとんでもねぇ力が俺にはあんだからなぁ!! 俺は神だ!!」
普通に戦ったら長期戦になってしまう。そうなるとデリックの命が危険だ。ここはオーバードライブを使ってあの神気よりも強力な神気で打ち破る他ない。
デリックは魔力の使い方で神気を無理やり発現している。
だから魔力の流れる力脈を一時的にでも断てば力が使えなくなるはず。
「だったらこの技で! オーバードライブ!!」
ギュイィィィィィィィィィィィィィィン!!!!!!
神気の青いオーラが体から炎の様に吹き出し、髪が青白く輝く。オーバードライブとは、封印している2段階目の神気、レベル2の神気って呼んでるんだけど肉体を持ったままその力の封印を解き制御する技なんだ。
シールドを編み出した時にもしかしたらこれを駆使すれば、もう一段階上の神気も使い熟せるんじゃないかって密かに修行してたんだ。
「な……んだあのバカでけぇのは……」
「僕の力を感じ取れるだけでも凄いよ。だけどやっぱり君が使える力じゃないから……止めさせてもらうよ」
「へ、へへへ……面白ぇじゃねぇか!! 今の俺がどんだけ強ぇか見せてやるぜぇぇ!!!」
グオォォォォォォォォーーー!!!
何だって……またさらに神気を高めるなんて。
「く……で、デリック! やめるんだ!!」
「うはははは!!! まだまだ漲ってくるぜおい!!! てめぇの存在そのものを消せるだけのすんげぇ力が、全身に行き渡ってんだよ!! ぐははははは!!」
神威刀の柄に手をかけて、抜刀の構えを取る。
「そうか、やっとその剣を抜く気になったか! だがそんなんで俺は倒せねぇんだよぉぉ!!!!」
デリックは高く跳び上がって、空中から僕目掛けて突っ込んで来る
「死ねよクソデブ!! 超絶グランドブロウ!!!!」
高めた神気を拳一点に集めて空から殴りかかってくるデリックの技に合わせ、霊的な存在を斬る抜刀技、霊破流影刃で力脈を断つ。
「神威無双流……霊破流影刃!!」
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