怪盗は、異世界を滅ぼす事にした。
松葉たけのこ
怪盗、参上――よりて惨状!?
コルヴェット城。灰色の岩で出来た断崖絶壁。その岩の上に聳え立つ古城だ。
その古城は、灰色のレンガがその大半を占める。窓ガラスは雲って灰色を帯び、窓枠まで灰色。つまり、城全体が地盤の崖と同じ灰色となっている。
遠くから見ると、大きめの岩と見分けが付かない。その城は、カメレオンのようにほとんどが岩と同化している。
その灰色城の中心にて、金色の塔が煌めく。
城の他建物とは違う出で立ちは、まるで蜃気楼だ。
かつてはノイエンタール王国で映画を馳せた、伯爵家。
コルヴェット家――その幻の栄華を誇示する、金色の塔。
その塔の窓の中、“青”が揺らめく。
「お前……――正気か!?」
ヘルメットだけの無い
獅子の装飾がでかでかと黒で縫われた、青いマント。
空のように広がる青い長髪、透き通る青い瞳。
コルヴェット家の末っ子令嬢、リナ・コルヴェット。
彼女は、目の前の男を睨みつける。
烏の仮面を付けた、黒マントに長身細身の男。
貴族風の黒い
その足元には、裸の胸像。
リナ本人を忠実に再現した彫像。
その偽物の胸を撫で回し、仮面ごしに本人を見る。
「さぁ、どうだろう……俺も分からなくなっちゃってさ」
リナがキッと男を睨む。
その白い手が、腰から下げた剣の柄に掛かる。
「このド変態が……死ねッ!」
向けられる刃。
その鈍色に、男は笑い掛ける。
「ハッ――試してくれるか、俺の正気を」
リナが長剣を抜く。
その髪の横を貫く――弾丸。
男の抜いたリボルバー拳銃、S&W Model 2、アーミー。
その弾丸が女騎士の髪を揺らす。
「……貴様……何者だ……?」
“世界観”の合わない武器。
それを無駄にクルクル回して、腰のホルダーに入れる男。
その男は、仮面を少しずらす。
仮面の目の部分――その穴から緑と赤の眼光が覗く。
「時代遅れ、ロマン大好きの大怪盗さ」
リナの背後に駆けつける、援軍。
ノイローズ城の近衛兵。
それに対し、怪盗は呑気に右手を振る。
「ハーイ。遅れすぎだぜ、マイハニーたち」
そのまま、怪盗は左手を上げる。
「もう――
それから片耳を左手で塞ぐ。
その耳に差した、インカムを。
「頼むぞ、我らが腐れロリ外道」
直後、男の背後で壁が爆発。
突如、灰色の壁に穴が空いて、突破口となる。
「馬鹿な……爆発術式だと……この城全体には、魔導士様によって“防魔の魔法”が掛かっている。どんな魔法も仕掛けられないはず」
女騎士の問いに、インカムの向こうで声が答える。
『ヌハハハ! 魔法なんかじゃない。爆弾なのだ! あれ……我、合ってるよね?』
「おい、ロリ外道の竜。言っとくけど、お前の声、リナまで届かないからな」
『まじ?』
肩を竦め、怪盗はマントの裏から白い気球を打ち上げる。
怪盗本人とワイヤーで繋がった気球。
「……探知魔法も掛かっている。危険物だって仕掛けられないわ」
白い気球。
それは“上”から爆弾を放った、彼の援軍への合図。
空を飛ぶ、怪盗の仲間への合図。
「俺の仲間は、空から爆弾を降らせる。だからさ、探知魔法なんか無意味なんだよ――っと」
怪盗の放った気球。
その気球に付いた、スカイフック。
そのフックが何かに掛かる。
「時間だ――それでは皆さま、ご機嫌よう」
金色塔の真上、その上空を通り過ぎる――神話の怪物。それが噛みつく。
「……ドラゴン――!?」
その
“フルトン回収”用のフックが引っ張られる。
「ぐえ――ッ!?」
直後、怪盗は、気球に繋がったワイヤーに引っ張られた。
そして、空に消えていく。
「なにあれ」
「さあ……?」
怪盗は、異世界を滅ぼす事にした。 松葉たけのこ @milli1984
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