勇者の軌跡閑話6:エルフの女王、勇者を想う

「いやぁ~、それにしてもえらい豪勢な結婚パーティだったがね~。」

 ハイエルフの女王(齢9歳で見た目パーフェクトボデー)が、自宅の屋敷でソファーに座りながらそう言った。

「左様で御座いますね。聖女殿との婚姻は我々も予想していたのですが、まさか人族の姫君ちみっ子王女とも婚姻されるとは思っておりませんでした。」

 女王と共に勇者の結婚パーティに出席した宰相(見た目ちびっ子)がそう答えた。

「うむ、それにしても、勇者殿のあの表情、まるで『この世の終わり』のような顔をしておりましたな。いつも自信にあふれている勇者殿があのような顔をするとはな。思わず吹き出しそうになりました。」

 そう言って、思い出し笑いをする近衛隊長未亡人エルフだった。

「しっかし、参加者を見ちょったらいろんな種族が来とんしゃったな~。」

「何でも、勇者様は魔王討伐後お一人で世界中を旅されたそうです。その時に知り合った方々なのでしょう。」

「新郎新婦と同じ人族や我々エルフは勿論、勇者パーティのハーフリングや巨人族も大勢来ておりましたね。」

「うむ、それにこちらではほぼ見かけない獣人族や、有翼族ハーピー海人族マーマンなども招かれていたな。」

「驚いたのは、敵対していた『魔族』が招かれていたことだったな。勇者様は『そんな細けぇこと気にすんな。「昨日の敵は、今日の友」と言うしな。』と言われていたな。実力もさることながら、懐の深さもある立派な御仁だ。」

 宰相と近衛隊長が、勇者たちの結婚パーティに招かれていた種族を思い出しながらそう話していた。

「う~ん、思い出すと強そうな人がったから、ちょこっと『腕試し』をしてみてゃーかったで。」

 女王がそんなことを言うと、宰相が呆れた顔をして口を開いた。

「まったく。またそのような事をおっしゃっておられますが、以前勇者様にどんな目に遭わされたかお忘れですか?」

「うぐっ。」

 女王はその発言に言葉が詰まった。勇者が女王と一緒にはぐれオーガ重戦士の調査をした際、女王の不注意(と本人は思っている)で、「女王の威厳」を失いかねない事をされたのだ。

 更にその後、勇者の仕掛けた罠にはまり、暫くの間「ハイエルフ」の力が使えなくなったため、正に「牙を抜かれた猛獣」状態にされてしまったのだ。

「そんなに強い方と戦いたいのであれば、勇者様にお願いしてみてはいかがですか?」

 そんなことを宰相が言うと、女王はがっくりとこうべを垂れた。

「・・・今のうちでは、あん人にゃーぜってー絶対勝てやせんて。そのくりゃーうちでもわかるでよ。考えるだけでもおそがい恐ろしいがね。」

 うな垂れる女王を見て、宰相は少し面食らっていた。

(エルフを凌駕するハイエルフの陛下が、あそこまで恐れるなんて、勇者様はどれだけ強いの?)

(まあ、なんにせよこれに懲りて無暗矢鱈むやみやたらに戦いを吹っ掛けるような真似を控えていただけれるようになればいいけど。)

 宰相がそんなことを考えていると、女王が頬に手を当ててくねくねしだした。

「・・・ほだけど、うちより『明らかに』強い人なんて初めてだったで、何か嬉しいがね~♪」

「よしっ、ほだら勇者様に負けんように、これからうちも特訓だがねー!!」

(あ、何かヤバい方向に進んでいるみたい。)

「ちゅーわけで、今から修行の旅に出るでよ!早速まわし準備してくるで、近衛隊長も付いてこやー!」

 と言って、女王は屋敷の奥にすっ飛んでいった。

「やれやれ、ああなったら何を言っても考えを変えられないからな。」

 そうため息をつきながら、近衛隊長は女王の後を追った。

 それを見届けた宰相は、頭に手を当て「はあ」とため息をついた。

「まあ、陛下はまつりごとには関わっていらっしゃらないので、特に支障はないですけど。」

「ただ、修行先の方々は災難でしょうね。今のうちに謝っておきましょう。」

 そう言って、宰相は頭を下げた。

「うちの戦闘狂女王がご迷惑をおかけして、申し訳ありません。なお、かの者女王が起こした損害その他もろもろについて、エルフの国は『まっっっったく』関係ありませんので、その辺はご了承くださいませ。」

 ----------

 その後、近衛隊長母娘を共に連れて修行の旅に出た女王は、行く先々でトラブルに見舞われるも、その類稀なる戦闘力(と容姿)で次々と解決していく。

 助けられた人々からは、その容姿と戦闘スタイルから尊敬の念を込めて「白き流星」と呼ばれ、片や敵対した者たちからは「白い悪魔」の名で畏怖いふされるようになった。

 何故か戦闘中に「あみゃあ甘いっ!!」「そこっ!!」「とろくしゃあ遅いっ!!」と叫ぶようになり、近衛隊長母娘に「後ろにも目をつけやぁ」という無茶な注文をして困らせていたりした。

 世界中を廻った修行の旅の締めくくりとして勇者の元を訪れた時、勇者の変わり果てた姿に驚愕していたが、特に気にすることはなく勝負を挑み、見事返り討ちに合っていた。


 このハイエルフの女王が行った修行の旅の様子は、後年同行した近衛隊長の娘が書籍化し、「麗しきハイエルフの女王が身分を隠し、世に蔓延はびこる悪を成敗する」物語として全世界でベストセラーとなった。

 ----------

 おまけ

「名古屋県」

「『名古屋県』じゃにゃーって言っとるがねー!!」

「えびふりゃー」

「そんな事言わにゃーっ!!」


「なんてことを妄想してみました。まる。」

「勇者様、何をブツブツ言っとりゃーすか...?」

 ----------

 これにて、本作品はとりあえず完結となります。

 最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

面倒くさがり屋(だけど最強)勇者の英雄譚 白牛乳P @key001

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画