第4話 教会





「起きてください、異世界人の皆様方」


 全能神の言葉が正しければ、もう目を開けても良いのだろう。

 そう思って目を開けると、


「ん?」


 思わず疑問の声が出てしまった。何故なら、目の前にあるのは異世界召喚系の小説などでよく見かける『美しい女性が〜』とか、『神聖な雰囲気の〜』とか、そういったものではなく、


「うう〜」「気持ち悪い」「頭が痛い」


 何やら気分が悪くて倒れたらしい同級生や先輩後輩が死屍累々のように転がっていたのだった。


「あ、ようやくお兄ちゃんが来た!あれ?お兄ちゃんは平気なの?」

「この声はやっぱり音々か。ようやくって何?あと、平気ってどういうこと?」


 聞き慣れた声がしたと思ったら案の定、義妹の音々だった。周囲の者たちとは違い、音々は平然としている。


「ようやくっていうのは、人数が多かったから、召喚が5回に分けて行われたみたいなの。私とお姉ちゃんは最初の召喚で、お兄ちゃんのお友達も2・3回目の召喚で来たんだよ。ちなみに、私が召喚される様子を見たのは4回目だからお兄ちゃんが来たのは最後の召喚ってことになるよ。それから平気っていうのは・・・・・・え〜と、教会の人は何て言ってたっけ?魔素?次元?座標?う〜ん、何だったっけか?あ、見た目や名前が同じでも使っている材料の質や量が異なれば味も異なる!」

「違うわ、音々。世界渡航による弊害。世界によって中身が異なるから体が拒絶反応を起こす、よ。貴方が自信満々に答えたそれは一つの例えね。」


 最初の質問にはスラスラと答えられていた音々だが、その次の質問には曖昧で要領の得ない答えしかでなかった。

 そんな音々の回答を正したのは音々の実姉にして、自分の義姉の那奈であった。


「那奈義姉ねぇ、それは何?」

「同じ苺でも環境や育て方、遺伝子などによって味が異なるように、私たちのいた世界とこの世界は根本的な部分から異なるのよ。例えばこっちの世界には魔法や魔術といった私たちの世界ではオカルト扱いされるものが存在するし、生態系も異なっているようなのよね。だから、環境の急激な変化に耐えきれずに酔いに近い症状が出るのよね。ただし、これには個人差があって、主に【勇者】や【賢者】、【聖女】などの一部の職業や称号、あとは保有スキルによっては回復が早いみたい。最低でも5日はかかるだろうから、それまでは図書館や大広間などの一部の場所だけだけど自由に動いてもらって構わないってさ。ちなみに、この世界は私たちの世界ほど科学力は発達していないけど。それを補えるレベルで魔導という魔法や魔術などを纏めたものが発達しているみたいなの。」


 自分は少し驚いた。もし魔法などの力があれば、ある程度であれば科学力の代用となるとは思っていたが、補えるほどに発達しているとは思わなかったのだ。


〘一応言っておきますが、前の世界にもそういった力はありましたよ。ただし、扱えていたのはほんの一握りだけであり、現代の技術力や科学力などでは太刀打ちできない災厄にのみ力を行使するという不文律があるため、表舞台には立っていませんでしたが・・・・・・〙

(なるほどね。それは僕でも使えたのかな?)

〘是。マスターの場合は常に私が展開・制御をしていたため、常人よりも力はありました。ただし、この世界はあちらの世界よりも魔力と呼ばれるものが満ち溢れているため、あちらよりも向上可能です。実行しますか?〙

(まだいい。・・・・・・何もなければこれから図書館へ行こうと思う。そこからこの世界の解析を実行してくれ。恐らく、解析中は眠ることになるだろう?)

〘是。念の為にマスターのステータスの閲覧妨害及び身体保護結界を構築します。〙


 そして自分は那奈の方を向いた。


「これから何かするの?」

「ん〜、ステータスの公開がみんなの酔いが醒めてから行われるって。何でも、色々な国に所属する必要があって、なるべく希望には合わせるけど、ステータスによってはパワーバランスとかの関係で分けなければならないこともあるって言ってたわ。それはそうと、零無は何の職業だったの?これほど早く回復したってことは上位の職業でも持っている気がするけど・・・・・・。あの神様が言っていた通り、強く意識すればステータスが脳裏に浮かび上がったわ。ちなみに、私の職業は【賢者】だった。」

「音々もだよ〜。なんか私たちは二人で真価を発揮するっぽいスキルが多かった。」


 確かに那奈は博識だ。自分たちが通っている小中高一貫教育の私立楓学院の頭脳とも呼ばれるほどには記憶力も知識量もある。

 そして見かけも口調も幼さが残っているような音々ではあるが、これでも学年首席の成績を誇っている。これは同じ家で暮らしているから知っていることだが、既に中1の分野が終わっており、中2の分野を予習中である。

 そんな二人であれば【賢者】を得てもおかしなところは何もないだろう。


「そうなんだ。何もなければ図書館に行こうと思っていたからついでに確認してみるよ。」


 そういって自分は図書館の方へ行く。

 といっても場所を知らないので、近くにいた修道女に道を訊き、ついでに大広間などの行動可能範囲とその場所なども訊いておいたため、着いたのは行動開始から1時間後になっていた。

 図書館の中に入ると中はとても静かであった。


(じゃあ、始めてくれる?)

〘了。世界の解析にはマスターの脳に多大な負荷をかけるため、マスターを強制休眠状態へと移行。マスター命令により、精神保護を一時的に解除。命令確認:開始時間より120時間以内に世界の解析完了。・・・・・・期限内に実行を完了させるため、世界式《アカシックレコード》に接続します。・・・・・・・・・・・・接続完了。これより世界の解析を開始します。〙


 その声とともに自分は意識が朦朧としてきた。

 より正確に言うならば、強烈な眠気が襲ってきた。


(多分、那奈や音々か友人たちが自分の様子を見に来て焦るだろうなぁ〜。もし、見に来たのが彼女たち以外であっても、恐らく目を覚ますまで付きっきりで看病するとかって言いそう。何はともあれ、解析が終わって起きた時にはかなり心配をかけているんだろうね。)


 自分はそんなことを最後に考えながら意識を失った。

 心配をかけた埋め合わせが小規模でありますように、と祈りながら。






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綴られし新たな世界神話 山染兎(やまぞめうさぎ) @tsukahaya

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