第五話 スキル発見

「起きて、起きてエス!!!!」




耳元で叫ばれて俺は意識を取り戻す。眼前にはエリカが泣きそうな顔をして俺を抱きとめていた。


あれ、何があったんだっけ。


そして俺はさっきまでのことを思い出す。


そうだ。歯車に指が巻き込まれて、、、、


そこまで思い出して指をバッと見つめる。泣き別れたはずだがちゃんと指はあった。


さっきまでのは本当に現実だったのだろうか。


横にはエリカの他にライザさんもいた。




「はぁ、、、、よかった。エスちゃんが無事で。


水車小屋は滑るし危ないから子供は入っちゃダメなのよ。


まあ転んで気絶したくらいで済んで良かったわ。」




「あ、、ごめんなさい。勝手に水車小屋入っちゃって。」




「エスちゃんは悪くないわ。悪いのは水車小屋に入るように言ったあいつよ。


こら、スバル!!!。隠れてないで出てきなさい!」




ライザさんは先ほど俺に水車小屋に行くのを勧めてくれた女性を捕まえに行く。


彼女はどうやらスバルさんというらしい。


どうやら今は休憩時間のようで扉の向こうに見える女性たちは伸びをしてリラックスしていた。


どのくらい気絶していたんだろう。っていうか本当に俺の指は吹っ飛んだのだろうか。


俺はエリカの腕の中から抜け出して立ち上がる。




「俺はひとまず大丈夫。


今ってさっきからどのくらい時間たってる?」




「あ、私が仕事始めたのが七時くらいで、今が十二時くらいかな。」




「マジかよ、五時間も気絶してたのか。」




「うん、私も今の昼休憩でやっと気づいたからね。


本当に大丈夫?」




「ああ、転んだのは大丈夫。でも指が歯車に挟まってね」




俺はあまり記憶が確かではないが体験したことをエリカにだけ聞こえる声で話すことにした。




「指の先がなくなったんだけど。」




「え、うそ!?」




「いや、俺も驚いたんだけど、そのあと、飛び散った血とか肉片がもれなく俺の指先に呼び寄せられるように戻ってきて元に戻ったんだ。フィクションとかで見た不死身のキャラみたいに。」




「そんなこと、、、まるであの、、、、


いやなんでもない。エス。とりあえず一回家に帰ろう。」




エリカはどことなく思いつめた顔をしたがすぐに思い直したようで家に帰ろうと言ってきた。


俺は別に断る理由もないのでついていく。




「仕事は大丈夫なの?」




「あーね、私は作業効率が良くてノルマをすぐ達成できるから別に早上がりでいいんだよ。」




「あーなるほど。納得。」




「帰る前に市場に寄ってもいい?」




「市場?」




「アーティファクトが売ってある市場だよ。


ちょっと治安悪いから気を付けてね。」




「へーちょっと面白そうな場所だね。


でもエリカ、店で買うとき話せるの?」




「あ、それは大丈夫。紙に欲しいものを書いておけば会話しないで買えるから。


あそこでは素性を知られたくない人もいるからね。」




エリカの口ぶりからしてアーティファクトの市場というのはなかなかにダークな闇市的存在なのだろうか。


面白そうとか言ってしまったが少し不安になってくる。


それよりも俺の脳裏にちらつくのは指がなくなった時である。あれはすごく痛かった。


夢の中であんな痛みを受けると普通は目が覚めるようなものだが、俺はまだこの世界に留まったままである。


もしかして本当はここは夢の世界などではなくて来世とかなのではなかろうか。本当に異世界転生のような形でいま俺はセカンドライフを送っているのかもしれない。謎は深まるばかりだ。


まあ感覚としては異世界転生した気分でこの世界で今生活してるんだけど。


しかし、そうなると色々神経使って死なないように立ち回らなきゃかもしれない。


今までは夢だと思ってたから死んでもいいやの精神だったが、この世界で死ぬのは本当の死を表すのかもしれないからだ。


俺はエリカの服の裾をぎゅっと掴んでいた。不安感は徐々に焦燥に変わっていくような気がした。


でももしかしたら指が治ったってことは死なないって可能性もあるはずだ。


まあ、大丈夫大丈夫。俺はそう自分に言い聞かせた。


そうこうしているうちにエリカと俺はお目当ての店についたようだ。




「いらっしゃいませ。何がご入用で?」




店主の声に対して紙切れを一枚。んっと突き出すエリカ。


店主の方も慣れているようで気にした様子はない。


奥に引っ込んだ店主はやがて一枚の古びた紙きれを持ってきた。




「小金貨三枚になります。」




紙切れ一枚の代金を支払うエリカ。小金貨三枚の価値が如何ほどか知らないがどういう紙きれなんだろう。


エリカは取引を終えるとそそくさと逃げるようにその場から離れていった。彼女はやはり終始おどおどしていた


俺もなんだか見られているような気配がして気持ちが悪かったので二人とも示し合わせるでもなく早足になって帰路についたのだった。






家に帰りつくとエリカは手袋を外して席に座り俺に対向の席に座るように言った。


真剣そうな彼女の雰囲気に気圧される。




「エスの指が取れた時、血とか肉片が元の場所に吸い寄せられて行って治ったんだよね?」




「うん。そうだよ。」




「わかった。じゃあ一回この紙の上に手を置いてみて。」




そう言って彼女は先ほど買った古びた紙切れを机に置く。


俺は恐る恐る紙に手を重ねた。彼女はそれをじぃっと一心不乱に見ていた。


しばらく手を置いて緊張で手汗が滲んできたころ。


紙の淵が金色に輝いて文字が浮かび上がる。




「やっぱり!」




エリカはわかっていたとばかりに俺の手から紙をひったくって目を通す。


そして読み終えたのか、おもむろに話し始めた。




「まずちょっと乱暴にしちゃってごめんね。


乱暴にしたのには理由があるんだ。今からそれを話すから覚悟して聞いてね。」




エリカの真剣な目に射竦められる。ごくりと唾を飲み込む音が自分でも聞こえた。




「スキルって知ってる?


知らないかな。じゃあまずスキルについてからだね。


スキルっていうのは生き物が生涯に一度だけ取得できる特殊能力。


それはいろんなときに発現するけど。何かを強く願った場面で発現するって言われてる。


そしてその願いを叶える最低限の特殊能力が付与されるんだ。


ここまで大丈夫?」




「うん、、、、理解してる。」




魔法やエルフに続き、スキルという概念まであるそうだ。なんとなくわかってはいたけれども。


しかし、俺が日本でよく体験していたゲームなどではスキルは何個も取得できるのが大半だがこの世界ではどうやらスキルは一つしか生涯で取得できないらしい。ちょっとレア感あるな。


しかし、最低限の特殊能力ってあるしケガが一回治るだけみたいな能力もありそうだよな。


だとしたらちょっと不安だ。




「そしてそのスキルを検知するのがさっきエスに使ってもらったスキル検知紙ね。


それで、、、、結論から言うとエスには『不死』っていうスキルがあった。」




「『不死』ぃいい!?」




響きからしてチート感が溢れている。


不死ってあれか?死なないやつ!?


究極生命体みたいになってるじゃんやばいなそれは。


いや待て早とちりしない方がいい。続きを聞こう。




「そう、『不死』。簡単に言えば死なないスキル。


どんなケガも一瞬で完治し、寿命以外で死ぬことはないんじゃないかと言われてる。


今まで竜人の戦士が一人だけこのスキルを持っていたという伝説があるだけで凄くレアなスキルだね。


私も今日まで本当にあるとは思ってなかった。伝説だもん。


でもエスの言ってたケガの治り方とかが伝説の話に酷似してたからまさかと思ったら案の定だったよ。


こんなレアなスキル、指がなくなったぐらいで発現するわけないからきっと昔から持ってたんだろうね。」




でも不死スキルを持ってるだなんて、このエスという少女は一体過去にどんだけ波乱万丈で危険な場面に遭遇したのだろうか。非常に気になるところだ。


そんなことを思いながらも俺は内心でほっと胸を撫でおろす。


先ほどまでのこの世界で死んだら終わりなんじゃないかという心配の一切は無駄であったようである。


ゲームのような異世界でチートスキルを手にしたという喜びと、もしかしてこれが来世だった時に死ぬことがないという安心感が入り混じって心がこれまでにないほど高揚する。


しかしエリカの方はやけに浮かない顔をしていた。




「不死スキル自体はとても凄い。


レアなんてものじゃない。でも、昔、不死ではないけど、『超回復』のスキルを手に入れた人が研究材料にされたっていう都市伝説があってね。


そう考えるとエスを街に連れて行くのは今後できないかもって思うと、ちょっと怖いなって」




どうやら彼女が浮かない顔をしているのはスキルがあることで追われる危険性があるということらしい。




「いや、でもさ、別に大きなケガさえしなければいいんだからさ。


大丈夫じゃない?それにケガしたとしても治ったとてそんな伝説級のスキル持ってるなんて思わないでしょ。


それにケガをしないように気を付けるし。今日みたいなのはレアなケースだよ」




「そう、、、かな?」




「そうさ、それに目撃者もいなかった」




彼女はそれでも不安が残っているようである。


確かに彼女にとって初めての友達であろう俺が研究材料にされてしまうのは恐ろしいだろうし、そんな心配のせいで街を一緒に歩けなくなるのも非常にやるせないことだろう。


これからの不安に彼女が泣いてしまったようなのでとりあえずは彼女を安心させてあげたいと思った。


彼女は壁に掛けてある時計を見て晩御飯の仕込みをしてくるねと言って足早に去っていった。


まだ不安だろうが気丈に振舞う彼女の何と健気な事か。


職場での様子を見るにきっとエリカ自身が触れ合うのが怖いだけで嫌われてはいないのだろう。


何か話をするきっかけを作って上げられたらなとも思う。


色々と彼女のためにしてあげたいことはたくさんあるが、目下の問題はどうやって彼女を安心させるかだ。


そうだ、彼女が料理をしている間に魔法の練習でもしてみようか。


魔法を使うにはインジェクターとかいうあの手袋が必要みたいだけど魔力を体感するくらいだったら別にできるだろう。アダプターは埋め込まれてるらしいし。


魔法を使えるようになって、自衛手段が増えればエリカを安心させられるかもしれない。


そう思い立った俺は試しに手の平を広げて魔力っぽいのをつかんでみようと奮闘することにしたのだった。


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【怪しい治験バイトから始まる異世界エルフ人生】~種族チートで世界救う~ @takeyouji

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