第8話 過去⑧ ~それから、そして、これから~
車に乗ってから暫くして、隣に座っていた軍人が話し出した。
「そういえば自己紹介がまだでしたね。私は連合国軍情報部のマクガノンと言います。階級は大尉です。キミの名前は?」
「ウィロ・グラベル」
「そうですか。ではグラベル。約束通りキミをこれから新設される私の部隊へ連れていきます。因みに部隊名は対敵諜報部隊と言います」
「たいてき・・・ちょーほー部隊・・・?」
始めて聞いた難しい言葉に俺は顔をしかめた。
それを見たマクガノン大尉は説明するように言った。
「簡単に言えば敵対国へ潜入して色々やる部隊になります。今までは情報部内の一部署に過ぎなかったんですが、今回の戦争で情報の重要性が再認識されましてね。独立、再編して帝国の情報を抜き取る専門部隊を設立したんですよ」
「は、はぁ・・・」
分かったような、分からないような大尉の説明に頷く。
さらに大尉は続けて言った。
「最初に言った通り、帝国に思い知らせるというキミの目的が達成出来るかは分かりません。ただ、戦場で暴れて散るよりかは、帝国に迷惑を掛けられると思いますよ」
◆◆◆
それから俺はマクガノン大尉率いる対敵情報部隊の一員として連合国軍に入隊した。
入隊後は、諜報員としてみっちりと訓練を積みながら何度か任務をこなした。
難民に紛れて情報収集したり、帝国の補給線に破壊工作を仕掛けたり。
俺は帝国に思い知らせてやる為に全ての任務で成果を上げて生き残り続けた。
生き残るのに強い身体も大いに役に経った。
やがて評価が高まった俺は数年がかりの任務を与えられた。
それは帝国兵に成り済まして、軍内部の情報を奪取する事だ。
俺は戦争で荒れた連合と帝国の国境付近の街に別の諜報員と親子の設定で潜入した。
荒れた地域では身元の確認も曖昧で、帝国民に成り済ますのは容易だった。
数年経ち、戦争が泥沼化した辺りで俺は帝国軍に志願した。
まだ入隊年齢には達してなかったが、戸籍を偽造し、訓練で培った話術と変装で切り抜け、帝国軍に入った。
そして、最初に配属された先は、泥沼化した前線だった。
俺と同期で入隊した奴らは配属先を告げられた瞬間青ざめていた。
俺も表情は彼らに倣って青い顔をしていたが内心では喜んでいた。
何故なら前線なら手柄を立てやすいからだ。
一般兵としてアクセス出来る情報など高々知れている。
それよりも早く階級を上げて、重要な情報に接触する機会を増やしたかった。
前線は手柄を立てるには絶好の場所だった。
俺は前線に送られると、そこで様々な工作をして現場を混乱に落とし入れた。
そしてその混乱に乗じて攻めてきた連合を俺の指揮の元に撃退して手柄を上げた。
勿論、この連合の攻めは事前に情報部と示し合わせたもので全てがマッチポンプだった訳だが誰にも気付かれる事はなかった。
それから少しだけ時間が経ち、俺は戦功が認められて昇進を果たし、別の場所に配属された。
そして、現在――――
「お~い、ボルガ上等兵~」
「あっ、軍曹。何でしょうか?」
俺は帝国東部にある、ザルガノという都市でボルガ・ラミレスという名前で警備兵として働いていた。
「この後の実弾演習の補充済ませたか~?」
「はい、終わってます」
「お~、相変わらず仕事が早くて助かる。それと少佐が呼んでたぞ。行ってこい」
「分かりました。失礼します」
ザルガノは銀光石の産出地、アルゲンタム山を抱える工業都市で帝国の重要拠点の一つだ。
前線から離れてはいるが大事な場所だから治安維持の為の警務局だけでなく、帝国軍からの警備兵も配置されていた。
工業都市なだけあって帝国の主力戦車や兵器の生産も積極的に行われており、最新鋭の軍事情報に触れられる絶好の場所だった。
「失礼します」
「おう、ボルガ上等兵。待ってたぞ」
「お待たせして申し訳ありませんでした。テレス軍曹から少佐殿が私を呼んでたいたと伺いましたが、用件は何でしょうか?」
「うむ。それなんだがな・・・」
そして、時には軍事情報だけではない。
もっと大事なものすら流れてくる。
それこそ帝国の根幹に関わるような。
「・・・実は、さっき銀龍騎士団からの通信で、積み荷の受け入れ要請がきてな」
「銀龍騎士団からですか・・・?」
銀龍騎士団は皇帝直属の騎士団で、「翼」、「爪牙」、「吐息」、「鱗」の四つの部隊からなる精鋭部隊だ。
戦争でも活躍しており、いくらザルガノが重要とはいえこんな後方にわざわざくるなど怪しさ満点だ。
「それで目立つのは困るから、信用できる者だけで受け入れて欲しいそうなんだ」
「それで自分が?」
「ああ。やってくれ」
「了解しました。準備します・・・ああ、そうだ。その積み荷とは何なのですか?」
「分からん。ただ・・・『最重要機密』だそうだ。意味は分かるな」
「・・・失礼します」
◆◆◆
結局、俺には何も分からなかった。
イルが何者だったのか。
俺の身体はどうなってしまったのか。
俺が見た銀色の光はなんだったのか。
なにも分からなかった。
だがその時は終わりを告げ、これから俺は戦いに巻き込まれていく事になる。
銀色の光を巡る戦いだ。
それは間違いなくこの日から始まったのだ。
銀色の光を宿した彼女の手を取ったこの日から。
月影物語 エビス @ebisu01
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