『書くことはリハビリ―ここ最近の小田―』
小田舵木
『書くことはリハビリ―ここ最近の小田―』
ライティングデスクに座っても一文字も出てこない。まるで便秘みたいな気分になる。
次を書かなきゃいけないのは分かっているのに。
俺は作家だ…とは言えアマチュアのだけどな。別に文字で飯を食っている訳ではない。
どんどんと追い詰められた気分になる。頭に物語一つ浮かんではきやしない。
別に毎日、書かなくても良いじゃないか?頭の片隅の俺は言う。いいや。書かなきゃなんねえ。頭の反対の方にいる俺が言う。
俺は働いていない。俗に言うニートだ。
だから時間は余っている。それを創作にぶつけている。
そんな事してる場合じゃないって?ごもっとも。
だが。俺は書き続けてないと、どうにも精神の平衡を保つ事が出来ないのだ。
それはある種のリハビリに似る。俺は執筆という作業でなんとか心を壊さずに保っている。
◆
中学生の頃に小説を読むことにハマった。
それはある種の現実逃避だった。なにせ、もうその頃には不登校になっていたのだから。
村上春樹と村上龍から俺の読書生活は始まり、その内に海外文学を読むようになり、日本の昭和の大家達の作品を読むようになり。
小説を読んでいると、現実からトリップできるのが良かった。クソみたいな現実から離れて作品の世界へと浸かる。そうしていれば俺は幸せだった。
幸せな日々は続かない。
俺は20になった。大学にもいかずにプーをしていた。
それを見かねた両親は俺を引きこもり専門の団体の施設に預けた。実家を放り出された訳だな。
そこでは本を読んでいる暇はなかった。知らない他人と共同生活をしていて、余裕がなかったのだ。
俺は22までその施設に居たが、その間に就職した。そして更に本を読む余裕はなくなった。
就職してからの日々。それは試練の連続だった。
学校もいかずダラダラ本を読んでばかりだった俺がいきなり社会に放りこまれる。適応出来る訳がないじゃないか?
よく罵られたものだ。なんたって選りにも選って接客業を選んじまったのだから。
客からも同僚たちからも罵られた。
本を読んで心を癒やす事を忘れた俺は酒に溺れた。酒臭い身体で出社することもよくあった。
ストレスがたまり続けた俺は就職4年目にして、退職することを決める。
これで本が読める―訳がなかった。実家に帰った訳だが、毎日何もしない俺を両親は見かねた。
しょうがないから再就職。今度は製造業。
そこは地獄みたいなもんだった。作っても作っても製造ノルマと売上に追われる日々。日勤夜勤を繰り返す生活。残業代が出ない居残り。
なんだったらまる一日、24時間働いていた事もある。
俺は再び、酒に溺れて。身体を壊す勢いだったが―その前に精神が
うつ。それが俺にくだされた診断で。
俺は呆然とすることになる。ああ、ついに本格的に逝かれちまったか。
久しぶりに本を読んだ。だが、文字を追っても作品の世界にトリップすることは出来なかった。それよりも自分を責める声の方が大きくて。
酒を呑みながら、よく呆然と部屋の天井を眺めていた。
本当はメンタルの薬を飲みながら酒を飲んではいけないのだが。
ああ。俺の人生は終わったな、と思った。
クローゼットからロープを取り出して眺めていたなあ。あの頃は。
そのロープは昔、接客業をしていた頃の俺が買ったものだ。
コイツで首を括れば楽になるだろうか?俺はよく考えた。
だが、こんな俺でも死ぬのは怖かった。俺が何にでもなくなり、この世から消える…想像力ばかりがたくましい俺は死ぬことに対して想像をし過ぎた。
だから死ねず終いで。なんとなしの日々を送り続ける事になる。
◆
ある日の事。俺はプログラミングの自習をしていた。別に就職を意識しての事ではない。
Pythonを学習しておけばいろんな事に役立てれると思っての行動。ある種のうつへのリハビリだったのかも知れない。
だが。プログラミングはど文系の俺には荷が重すぎた。コードを写経してもプログラムは動きはしない。
「クソが」俺は
天井を見る。それはうつの間、俺がこもり続けた部屋で。
白い壁紙。そいつはまるでスクリーンだ。そこに俺は想像力を働かせてみる。
それが物語の形を取っている事に俺は気づいた。
そのままテキストエディタに文字を打ち込む。今度は日本語で。
これが俺が小説を執筆するようになったきっかけだ。
◆
小説を執筆し始めた頃はよく新人賞に応募していたっけな。
まあ、全部一次選考で跳ねられたが。7本位は書いてたのかな。一年くらいで。
俺は新人賞に作品を応募し続ける意欲を失った。今の実力ではかすりもしない。
その間に俺はまた就職していた。まあ、派遣だけど。
派遣を初めてから、小説の執筆はストップ。流石に働きながらは書けない。俺はそんなに器用な人間じゃない。
派遣先ではうつ明けだというのによく働いた。残業2時間はデフォで。3時間することもよくあった。休日に出勤するのもザラだった。
こういう日々が続くと―いつの間にか残業が100時間近くになっており。
俺は疲労した。うつ明けだというのに無理をし過ぎた。
その日はやってきた。
ある日。俺はベットから起き上がれないようになり。そのまま会社に1ヶ月いけなくなってしまい。
気が付いたら派遣の契約は切られていた。またもやの失職である。
◆
それからの日々は小説執筆に邁進―とはいかなかった。
一文字も書けない日々は続いた。そんな日々はまるで砂漠の中で生きているようなものだった。
その間にもうつへの投薬治療は続いた。だが、状況は好転しない。
睡眠薬を飲んで眠り続ける日々が続いた。睡眠薬を飲むと俺は夢を見ない。
毎日寝続けていると―その内脳が腐ってくる。これは大げさな物言いではなく、マジの話だ。
◆
その日はやってきた。
俺は睡眠薬の眠りに浸かりきっていた訳だが―物語が降りてきた。
久々にパソコンを起動して。夢中で書き続けた。
それを『カクヨム』の賞レースに出した。一次は通った。
ああ。やっと俺の小説も日を浴びることになる…
その後の日々はとりあえず小説を書きまくって、『カクヨム』にポストし続けた。一日1本のペースである。
ひたすら書いた。書き続ければ、うつの時の自責の声に悩まさなくて済む。
それはリハビリだ。
俺は書き続ける事で生活を安定させた。昼夜逆転気味の生活を改めた。
早朝から起き、昼くらいまで執筆する生活に切り替えた。
だが。ある日。エイプリールフールのあの日。
俺は物語を書けなくなっている事に気付いた。
4月バカであって欲しかったが。そうもいかない。
俺は自責の声が響き続ける地獄に再び落ちていった。
◆
それからの日々はよく覚えていない。
記憶がなくなるくらいには寝続けた。
その間も親は就職するように言ってきたが―それは無理な話だった。
ああ。死のう。何度思った事か。
でも想像力のたくましい俺はそれを実行には移せない。
死ぬ、死ねない。それが拮抗する日々が続いた。
◆
うつは季節と連動することで知られる。冬になるとうつ気味になる人が多いのはそのせいだ。
夏。俺は7月の終わりを迎えようってのに、就職もせず、ぼんやりとしていた。
そういや―俺が賞レースに出した作品どうなったんだろ?ふと思った。
ま。連絡とか来てないから二次以降は落ちたんだろうけど。
そういや。もう3ヶ月弱は物語を書いていないなあ。
いやあ。あの頃は充実してたよなあ。毎日物語を考え、書くことで生活にメリハリがついていた。あの頃はハローワークにも顔だせていたのになあ。
俺は気がつくとパソコンを起動しており。テキストエディタを起動していた。
そして、適当に物語を打ち始める。
ああ。また書けるようになった―
◆
冒頭に戻る。
ライティングデスクの前に座っても一文字も浮かんでこない。
今は―小説執筆を再開してから16日目。やっと生活が安定してきたってのに。
ネタが尽きていた。書けるような物語はやり尽くしてしまっていた。
ああ。書きたい。なのに書けない。
椅子の上で悶絶。頭を掻きむしり考えてみる。
…出てこねえ。
俺は煙草を吸いにキッチンへと向かう。
俺は小説を執筆する時は煙草が手放せない。昔の文豪の真似っ子ではないが、ニコチンを使わないと、想像力がドライヴしない。
煙草を吸う。深呼吸をする。
さて。ネタよ降りてこい。神様、頼む。
…現実は非情である。まったくネタが浮かんでこない。
こういう時は書けないネタで逃げるか?一瞬考える。
いやあ。どれだけあのネタ擦ってんだよ俺。多分5作はそのネタで逃げたぞ。
んじゃあ?とりあえず―エッセイのような私小説のようなものでも書いてみるか?ここ最近の日記代わりに。
…かくして。この作品は出来た。
うん。完全にネタ詰まりの逃げだね。でもまあ、1作稼げた…
さあ。後はチェックして投稿して、ハローワークにでも行くかな。
『書くことはリハビリ―ここ最近の小田―』 小田舵木 @odakajiki
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