「夏が終わる」

夜海ルネ

「好きだ」

 もうすぐ夏が終わる。夕暮れ色に染まる教室で、私は窓の外を見ていた。どこかでカラスが、かあ、と鳴いた。


 まるで、聞かれているみたい。「お前は何も行動しないのか」って。


 ううん、別に何もしないよ。そんな勇気ないよ。


 私は、彼を想っているだけで十分だから。


 だから、高望みなんてしないよ。


「夏が終わる」


 私はつぶやいた。彼と二人きりの教室でつぶやいた。夏休みの補講も今日が最後。


 私は補講の日を楽しみにしてた。無条件で彼に会えるから。彼の隣の席だから。夏休みの間だけ許された、私の贅沢な時間。独り占めしたいけど、でも、私には、そんな勇気も資格もないんだ。


「どしたの、急に」


 彼はつぶやいた。私と二人きりの教室でつぶやいた。もうすぐ二学期だね。席替えだね。……寂しいね。


「あのさ」


 彼は私を見た。私は彼を見た。


「————」


「えっ?」


 私は固まった。彼は顔を真っ赤にしていた。私も、多分。


「うん」


 最後の最後に訪れた、幸せ。


 ああ、もうすぐ夏が終わる。


 ……“私たち”が始まる。


 END

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「夏が終わる」 夜海ルネ @yoru_hoshizaki

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