かぐや姫のペテン

kanimaru。

第1話

「もう、いなくなってしまうのか?」

八月十五夜、翁が寂しそうにかぐや姫に訊きました。

「はい」

こちらも寂しそうに、かぐや姫は頷きました。


「そなたを手放したくなどない。だがせめて見送りだけはさせてくれ」

物騒な軍勢を引き連れてきた帝はそう言いました。


「帝、一つだけお願いがあります」

「なんじゃ?」

「今まで私を育ててくださった翁をどうか、丁重に扱って下さらないでしょうか?」

「もちろんじゃ。そなたがいなくなった後も、翁のことはわが父のごとく丁重に扱う」

哀願の表情を浮かべたかぐや姫の言葉に、帝は力強く言いました。


「そのお言葉を聞けて大変安心いたしました。では天女があちらで待っております。行かなければなりません。今まで、本当にありがとうございました」

「そうか…達者でな」


帝は悲しそうに言いました。


「はい」

そう言うと、かぐや姫は天衣無縫の着物を着た天女が待つ方に歩いていき、消えていきました。





「本当に行ってしまうのか?」

帝が翁に訊きました。

翁はうなずきました。

「ええ。かぐやもいない今、いつまでもお世話になるわけにはいかないですし」

「ではせめて、これをもっていってくれ」

帝はそう言って、大きな袋を翁に渡しました。

「こ、こんな大金、受け取るわけには……」

翁が恐縮すると帝は、

「いいんだ、かぐや姫もそなたを丁重に扱うことを望んでいた。都に残らないのであれば、これくらいは当然だ」

と言いました。

「では、ありがたく受け取らせていただきます。今まで私とかぐやが受けた恩は忘れません」

翁はそう言って、深く深く頭を下げました。


「ではいつかまた、どこかで会おう」

帝のその言葉を受け取ると翁は馬に乗って、袋を大事そうに持ちながら、東へと向かっていきました。






都を出るとすぐに翁は、かぐや姫と合流しました。


「翁~!」

かぐや姫はそう言いながら翁に抱き着きました。

翁も抱きしめ返します。

かぐや姫は馬に目をやると、持っている大きな袋を見つけて驚きました。

「こんなにもらったの⁉」

「ああ。全てお前の演技のおかげだ」

「それを言うなら、翁の計画のおかげだよ~」

「いやぁ、山でお前を拾ってから頑張ってきた甲斐があったわ」

翁は自分の顔を破きながら言いました。

「うわっ、翁の素顔見るの何年ぶりだろ」

「都でお前の噂を立ててからずっと翁だったから、それぶりだな」


実は翁は都でも有名な詐欺師でした。

都から田舎に身を潜める際にかぐや姫を拾い、その時からずっと帝から金をだまし取る計画を立てていました。

そのために時間をかけてかぐや姫を立派な詐欺師に育てた翁は姿を変え、都に竹から生まれた少女がいると噂を流し、貴族に興味を持たせたのでした。

つまり、かぐや姫は月になんか行っておらず、竹から生まれたわけでもなかったのです。しかしそんなことはみじんも知らない帝は二人にまんまと騙され、大金を渡してしまったのです。


「てかよく竹から生まれたなんて嘘ついたね。非現実的過ぎない?」

かぐや姫が袋の中の金を確認しながら言いました。

「それくらい非現実的なほうがいいんだよ。奴らが食いついてくる。それにそれを言うならお前の四人に対する無理難題、あれの方が非現実的だぜ?」

「いや、適当な貴族と結婚すりゃよかったのに、翁が断れって言うから機転聞かせて無理難題言ったんだよ」

「そのおかげでこんな大金手に入ったんだ。それに結婚なんかしたらいつか俺の正体がばれちまうだろ」

「でも常識的に考えたらわかるのにね。おじいちゃんが小さいころから大切に育てたっていってるのに、長生きしすぎでしょ。普通とっくに死んでる年齢だよ」

「それでだませるからこんな大金手に入ってんだろ。まぁ、今夜はごちそうでも食べようや」

「ほんと⁉やったぁ!」

かぐや姫は翁の言葉にたいそう喜びました。





そして帝はというと、かぐや姫のことがどうしても忘れられず、家来に『竹取物語』という、かぐや姫の物語を書かせたそうです。














めでたし、めでたし。

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かぐや姫のペテン kanimaru。 @arumaterus

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