トンボ抜錨!!

@himajintarou

第1話 決戦の足音1-1

 人類とクローンの戦いが始まってから早一年、二〇五七年となった。人類にもクローンにも物資不足の影響は大きくいまだ両者共々大規模な作戦行動がとれていない状態であった。ここ国連海軍直営工廠では今日も新鋭艦の試作生産、そして過去の対戦で沈んだ船の修復、近代化に励んでいた。そんな中、海軍本部からの入電があったのである。

 「大佐殿、大佐殿、大変であります。」

いきなり工廠最高監督官、熊野日向大佐の公室にノックもせずに一人の若い士官、浦波疾風少佐が飛び込んできた。

 「ノックをしてから入れ。」

と熊野は浦波のことを怒鳴りつけたものの、

 「そんなに慌ててどうしたというのかね、浦波少佐。」

と笑いかけた。一方の浦波は険しい表情のまま

 「本部からの電文であります。」

と息を切らしながら告げた。熊野も真剣な表情を作り、

 「君がそんなに慌てるとは重大な電文らしい。読み上げたまえ。」

と浦波へ指示した。浦波は咳払いをすると、声高に電文を読み上げた。

 「本部より入電。二〇五七年一〇月二七日偵察機、暁雲一一型一二番機から本部への偵察報告あり。敵軍は南太西洋イナクセシブル島にて新型巨大弩級戦艦の建造を行っている模様。我々国連海軍本部はこれを敵の決戦兵器と認識し破壊作戦を実行する。作戦実行にあたり国連海軍直営工廠に新型駆逐艦の設計並びに建造を命ずる。これの詳細に関しては後日本部より作戦責任者を派遣し説明する。とのことです。」

しばらくの沈黙の後、熊野はゆっくりと口を開き

 「作戦責任者とやらが来るまでは我々にできることは何もない。だから明確な詳細が来るまでは、この作戦については極秘で扱うとしよう。」

そういいながらコップにゆっくりと緑茶を注ぎ浦波へ差し出した。浦波は申し訳なさそうに緑茶を受け取りゆっくりと飲んだ。飲み終わると浦波は

 「しかしなぜ駆逐艦なのでしょうか。」

と熊野に聞いたが、熊野が首を横に振り一言

 「分からぬ。」

と呟いたため浦波はこの作戦についてそれ以上のことを熊野に聞くことは止めておくことにした。

 太刀風嵐は一概には優秀な技師とは言えなかった。彼は主に駆逐艦の設計を行っていたが、あまりにも独特な設計だったため同じ部署でも期待はされていなかった。ただ、同僚の荒潮霞技師は幼馴染であったためか、彼に信頼を寄せており彼が傑作駆逐艦を生みだすと信じていた。しかし、今現在国連海軍の主力駆逐艦は荒潮の開発した山月型駆逐艦と旧海軍時代の特型駆逐艦で、太刀風の設計した南風型は一部にしか配備されていなかった。そのため新型巨大弩級戦艦破壊作戦用の新型駆逐艦の設計も荒潮に任される予定であった。太刀風にはもう一人信頼できる照月サムナーという技師がいた。彼はハーフでイケメンということから工廠付属学校の入学式から生徒の注目を集めていたが、風変りなものを好むことから誰からも注目されていなかった太刀風に声をかけ、一緒に設計をするなどしていた。彼は戦艦や支援艦の開発に従事していることから太刀風と設計する機会は無くなってしまったが、今でも食堂ではいつも隣で愚痴や悩み、設計についてを互いに話している。

 二〇五七年一〇月二八日国連海軍迎撃部隊はマルキーズ諸島沖でクローン軍と小さな戦闘を起こした。敵は軽巡洋艦二隻、駆逐艦四隻の水雷戦隊で、国連海軍は重巡洋艦1隻、軽巡洋艦二隻、駆逐艦六隻の迎撃部隊で戦闘に臨んだ。国連海軍の迎撃部隊には太刀風の設計した南風型が含まれており大いに活躍した。戦闘は三十分程度で終わり、国連海軍は敵軽巡洋艦一隻、駆逐艦一隻を轟沈させる戦果を挙げ、損害は駆逐艦三隻の中破程度に抑えることができた。太刀風の設計した南風型の活躍はすぐに工廠に伝えられ太刀風は同僚から祝福を受けた。しかし彼は自分の設計した駆逐艦で多くの命を奪ったことに罪悪感と恐怖を感じトイレにこもってしまった。



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