第40話 終わり

 多目的ホール2。

 小説を書いていて気づかなかったけど一条渚は髪を切っていた。

 髪で隠れていた綺麗な顔を出していた。

 母親に出会えて夜道を歩く必要がなくなったから切ったらしい。

 彼女が彫っている彫刻は手だった。

 すごくイヤらしい手。

 手には液体が滴っている。

 その手はぼくの手だった。

 その事を知っているのはぼくだけだった。



 宮崎いすずは図書館で借りて来た本を読んでいる。

「なに読んでるの?」

「民俗学の本」

 小難しいそうである。

 でも知っている。

 こういう本を読むのは小説のためなんだろう。

 小説のためなら、どんな本だって読めてしまう。

 どんな事でも出来てしまう。


 相変わらず伊賀京子は部活に来ていない。

 相方とネタを書き、ネタ合わせをしているらしい。

 だから彼女はココに来る頻度が少なくなっている。

 七瀬うさぎは相変わらず服を作っていた。

 彼女はぼくの事をチラチラと見ている。

 民俗学の本を読んでいた宮崎いすずが急に立ち上がった。

 そして電話に出た。

「はい。えっ、はいあばずれピンク頭です。そうですか。ありがとうございます」

 と声が聞こえた。

 宮崎いすずがコチラを向いた。

 ぼくは自分のアイフォンを見つめた。ぼくのアイフォンは無表情だった。

 もし応募した作品でぼくはデビューができなくても涙は見せないだろう。

 青春ラノベは何度も何度も壊される。それでも立ち上がって次の作品を書くだけである。

 誰かに読まれたい。その気持ちが心を壊す。

 新人賞を受賞できなかったら次からはネット投稿に切り替えよう。

 そんな事を考えながらノートパソコンを開いた。

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金木ハイジは小説を書いている 〜小説を書くために生活の全てを捧げた高校生が作った部活にはなぜか4人の女子生徒がいる〜 お小遣い月3万 @kikakutujimoto

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