未知数xの殺戮

結城綾

x=変数

 ある日、突如未確認生命体xが自室に飛来してはこう言った。


「もうこの世界に青い鳥はいらない」

「──なぜだ、そんなことする必要はないだろう!?」

当然私はその発言に納得できずに反論をする。

すると、思わず絶句するぐらいの横暴な主張を述べた。

「僕が世界だ。金もある、権力もある、何をしても自由だよね?」

その戯言を真言としたいが為、xは私の飼っている青い鳥の数匹を無惨にも殺した。

積み木を崩すかのように、飽いたおもちゃを捨てるかのような刹那であった。

私が唖然としていると、なんと青い鳥を乗っ取り窓を飛び去っていったのだ。

急いでスマホでSNSの確認をしていると、世界中でxに関する情報が拡散されていた。

自由の象徴である翼をもぎ取り飛べなくする動画が急上昇に上がっていた。

xに騙し討ちをされ、抵抗虚しく惨殺される鳥もいた。

食肉として加工されたり、家畜となり労働力の奴隷として働かされているとのリークもあった。


「なんでなんだ、生きているんだ、生きているんだぞ!」

私はxの暴虐無人の振る舞いに激怒した。

ネットを通じて集結したレジスタンス達が、侵略者のxを食い止めようと情報を拡散する。

叛逆を起こし、私達人類は必死に対策をした。

青い鳥を保護したり、対x兵器の開発も迅速に機密として行われていた。

しかし、その抵抗も虚無となり無意味となり死の宣告がやってくる。

あの時乗っ取られた青い鳥がモニターに現れてこう宣言をしたからだ。

あまりにも自分勝手で独りよがりでしかなかったが、小学生が授業中に思いついた最強の技と等しかったのだ。


「アカシックレコードを書き換えて、青い鳥を僕と同じ認知存在にする!」

その直後、地球は黒い閃光に呑み込まれ、神々しく赫々かっかくとなる。

そして各地に金属で形成されたxが顕現した。

全てのモニターには未知数のxが表示され、世界がアップデートされていった。

青い鳥に関連したイラスト、音声、経験が世界の情報媒体から根こそぎ削除されていく。

それはアイデンティティの死。

魂ごと記憶が改竄され上書きされる。

人々の記憶という脳が解体され、忘却の彼方へ誘いタブーとなる。

そんな禁句事項をいとも容易くやってみせたというのだ。

つまり世界がxを容認し、保護したということ。

どれだけ人類や自然界の生き物がもがき苦しみ抗った所で、地球という星に容赦なく存在を抹消される証明であった。

「おい、卑怯だぞ!出てこいx!」

その名を口にすると、反応したのはやつれて死にかけた私達のよく知るあの鳥であった。

そうか、もう「青い鳥」ではなく「x」となってしまったのか。

地球と同化した上位存在には、発言も行動も禁じられてしまうのか。

私達は世界の均衡が崩壊していく様を、ただ指を咥えて見ているだけしか許されなかった。

20XX年文月の末、あの素晴らしき青い鳥は世界から消滅し……絶滅した。

その日人類は、xに敗北を喫したのだ。





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