サイクルな気象

花野井あす

サイクルな気象


 あたしゃ川を流れていたよ。

 

 山のてっぺんから白樺の木の間を抜けてさ。何処までも漂っていたのさ。

 

 あたしが誰かなんて知らない。

 

 知らんうちに此処ここに在ったのさ。

 

 何処から来て、何処へ往くのか。

 

 そんなことだって把握わかりゃしないよ。

 

 あたしゃただ、世間様に身を任せるだけさ。

 

 あたしのことを誰も理解しりやしない。あたしは群衆の中のひとつでしかないんだからね。

 

 でも男前すてきな誰かが、あたしを個として見出してさ。「なんて可憐なひとなんだ」なんて囁いてくれたら、そりゃあ宙に浮く気分にもなるさ。

 

 どこまでもどこまでも、そら高く舞い上がる気象きぶんにもなるさ。そんな時は海原に出て手を広げて、「なんてい日なのだろう」と叫ぶのさ。

 

 でもそれでしまいさ。

 

 通常いつもその都度たんびに厭な風が吹くのさ。びゅうびゅうびゅうびゅう、あたしの足に重石おもしをつけてさ。びょおびょおびょおびょおあたしはくのさ。

 

 そうしてあたしの心持ちはくすってくらくなって、落っちんでしまうのさ。

 

 そうしてあたしはまた集団だれか要素ひとりに逆戻りして、川を流れるのさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

サイクルな気象 花野井あす @asu_hana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説