金魚すくうや、夏祭り
鷹羽 玖洋
金魚すくうや、夏祭り
イヤハヤ、この土日はどこもかしこも夏祭りのようで御座ンすな――。
例の疫病からウン年ぶりの開催とあって、一月も前から、耳に入ってくるお囃子の稽古の太鼓の
先週の夜、夜空にドーンと花火大会の火が開いたでしょう。
たまたま
案の定、祭りの熱気と人いきれに当てられて、ふらふら路端に逃げました。楽しげにそぞろ歩く、手を繋ぎあった笑顔の家族。綺麗な浴衣のお嬢方や、四角い頭に鉢巻き締めた
ああも
え? ハア。だから金魚掬いですよ、金魚すくい。そうそう、
――何ですか、その目は。いいじゃないですか
エエなに、わざわざ金払って破れ
粋じゃありませんねェ、粋じゃありませんよ。
どうしてそう
金魚ってのはね、旦那。ありゃあっしら自身で御座居ますよ。
そうでがしょ、旦那。人は皆、金魚なんで御座居やすよ。
生け簀の金魚は色も形も大きさも、大して違いは
人の浮き沈みだって同じでさァ。
汗水垂らしてどんなに努力したとして、自分じゃどうにもできねェ大きな力に振り回されることもある。そうなりゃ最後にゃ運不運。泣こうが
世の中ってなァ、もともと一人の気持ちとは関係無く動いて回るもんなンですから――と、そうは言ってもね。
やっぱり、哀しいもんは哀しいでしょう。虚しいことは虚しいです。
生きるってなァ、
そういうことを考えながら――しみじみ金魚を掬うてェのが、大人の金魚掬いなンで御座居ます。
へ? だったらその、口の端についてるソース汚れは何なんだって?
オットいけねえ、
土産。ハア、近ごろ手元不如意でしてね――旦那もよッくご存知でがしょ?
だからね、旦那。ホラ、金魚。可哀想じゃァありやせんか。
この黒いのなんざ生け簀の荒波に揉まれ揉まれて、両眼が飛び出ちまッてる有様が――で、出目金だから当然だ? イヤ可愛いでしょッて話ですよ。なんとッ、今ならすこぶる縁起の良い赤い金魚もついてくる。
イヤそこをなんとかお願いしやす、神様仏様大家様ッ。ウチには水槽なんてないんだから――ハイひとっ走りね、喜んでッ。綿飴りんご飴あんず飴、行ってきやしょうとも――え、水ヨーヨーにチョコバナナ、キュウリの一本着けも追加だとォ?
無茶ァ言うにも程があるよ、この上カキ氷はご勘弁。
金魚すくうや、夏祭り 鷹羽 玖洋 @gunblue
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