第63話 俺たちのこれから

「そして今に至る、か……」


 今でもとても信じられないが、俺は沙菜さんと付き合っているわけだ。

 しかも、一度は直接会うのを禁じてきた、真之さん公認で。

 

 それはとても喜ばしいことだが――。

 

 実のところ、沙菜さんは復学のことで忙しく、最近はあまり会えていなかった。

 冬花火を見に行く件も来年以降に延期となり、ここ数日はスマホでやり取りをしているくらいだ。

 

「……春休みになったらデートに誘うか」


 俺が独り言を呟いた、次の瞬間だった。

 俺の部屋のドアをドンドンと叩く音が、背後から聞こえてきたのだ。

 

「ん……?」

「お兄ちゃん! 開けてもいい? 急用なんだけど!」


 ドア越しに、急かすような詩織の声。

 今日は高校で英検を受けると言っていたが、もう終わって帰ってきていたらしい。

 

「急用ってなんだ?」

「急用は急用だって! ドアを開ければすぐわかるよ!」

「はぁ……?」


 ドアを開ければすぐわかるだって?

 ボス巡りは一段落ついたし、手が離せないことはない。

 とはいえ、これでどうでもいい用事だったら、詩織にはデストロイヤーを超える何かを飲ませてやらねばな。


「ちょっと待ってくれ。今ゲームのプレイ中だから」

「ちょっとってどれくらい?」

「1分かからないくらいだよ」


 俺は腹毛さんたちに一旦抜けることを伝え、ゲームをログアウトする。

 そして席を立ってドアへと向かい、

 

「ったく、一体何の――」


 ドアを開けて、俺は自分の目を疑った。

 

「……沙菜さん?」

「はい」


 すぐ目の前に、沙菜さんが立っていた。

 しかも高校の制服姿で。

 

「えっと……」

 

 俺にとっては私服姿よりも制服姿の沙菜さんの方が新鮮で、つい見惚れそうになってしまうが、まず確認すべきことがある。

 

 俺は廊下へ出てさっそく訊いた。

 

「……どうして沙菜さんが、ここに……?」

「どうしてって、私が連れてきたからだよ」

「いや、それはわかるが……」


 突然のことに戸惑う俺。

 そんな俺に向かって沙菜さんが言った。

 

「私も英検、受けたから……。それで、詩織ちゃんに会って……」

「午後から一緒に遊ぶことになったってわけ!」

「ああ、それで……」


 俺の知らない間に二人はすっかり仲良くなったようだ。

 ……それにしても、彼女が妹の友人というのは、何だか複雑な気分だな。


「それより聞いてよお兄ちゃん! 沙菜ちゃんね、もう志望校を――」

「……っ! ちょっ、詩織ちゃん……!」


 詩織が何か言おうとするのを、必死に止めようとする沙菜さん。

 ……志望校? 沙菜さんはもう志望校を決めたのだろうか。

 

「えー、別にいいじゃん!」

「まだ内緒の方が、サプライズになるから……」

「でもほら、お兄ちゃんに教えれば受験対策だってしやすいよ?」

「それは、そうだけど……」

「………………」


 ……これはつまり、そういうことなのか?

 俺もそこまで察しが悪いわけじゃない。何となくわかってしまった。


「……もしかして沙菜さん、俺の通ってる大学に受験するつもりなの?」

「――っ!!」


 ビクッと身を震わせ、目を大きく見開く沙菜さん。

 その反応は、俺の問いにイエスと答えているようなものだった。

 

「……チ」

「ち?」

「チガウヨ……!? ワタシ、チガウダイガクウケルヨ……?」 

「わ、わかりやすすぎる……」


 しかしまあ、沙菜さんが俺と同じ大学か……。

 沙菜さんとキャンパスライフを送ることができたら、それはもう楽しいだろう。


「……って、沙菜さんが大学進学してる頃には、俺はもう大学にいないぞ!?」

「お兄ちゃんが留年すればいいじゃん」

「してたまるかっ!」


 でもそうなると、どうして沙菜さんは俺と同じ大学に……?

 そんな俺の疑問は解決されることもなく、

 

「じゃあ、そういうことだから! 行こっ、沙菜ちゃん」

「う、うん……。じゃあね、翔真くん……」

「あ、ああ……」


 二人は俺のことを散々驚かせた挙げ句、あっさりと去っていった。

 けれどその去り際に、俺は確かにこの目で見た。

 

「…………?」


 沙菜さんがこちらへ振り向き、何か言いたげな視線を送っているのを。

 でも結局何も言わず、沙菜さんは階段を降りていった。

 

 それから間もなくして、俺のスマホにメッセージが届く。

 自室に戻った俺はメッセージを確認し、そして思わず笑ってしまった。

 

「……まったく、直接そう言ってくれればいいのにな」


 メッセージにはこう書かれていた。

 

『久しぶりに会えて嬉しかったよ。志望校のこと、今度ちゃんと話すね』


 ……もし詩織がいなかったら、沙菜さんは直接言ってくれたのかな。

 でもきっと、それでも恥ずかしがりながら言うんだろうな。

 

 俺たちの関係は発展途上で、これからも変化し続けるんだろうけど。

 今、俺の抱いているこの温かい感情は、きっとこれからも変わらない。

 

 それを証明するためにも、俺は沙菜さんと一緒に生き続けていく。 

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爆乳☆爆尻さんとオフ会で会った話 家守 @reputomin

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