終章

 大天狗との戦いから一夜明けた翌日の日曜日、俺はほぼ一日中寝て過ごした。

 今回は病院送りにはならなかったが、体力と気力と、その他色々ごっそり消耗した感じだ。冗談でも誇張でもなく、ただ息を吸って吐いているだけで精一杯だった。

 で、その次の日は月曜日。平日には高校生の俺は当然、登校する義務がある。

「おお、起きたか刀哉。さあ、このすまほの鐘を止めるが良い」

 スマホのアラームを耳元で聞きながら俺は目を覚ました。ゆるゆるとベッドに半身を起こしてみる。体のどこかが痛いということもなく、拍子抜けするくらいに普通だ。

「SNKの活動で疲れたからって言えば授業も免除されそうだけどな」

 自堕落な独り言を言ってみるが、今日も一日寝て過ごすのもゴメンだし、まだ数日しか付き合いのないクラスメイト達ともブランクが開くほど馴染めなくなりそうだし。

「中村とも久しぶりだしな」

 と、自分を納得させるように言う。

「刀哉! 早くすまほを止めよと言うのに!」

 刀尋が両耳を押さえて大声で抗議する。わかったわかった。


「おお、久しぶりだなあ! 部活で山に行ったら嵐で橋が流されて帰ってこれなくなったって聞いてさ! お前一体どんな部活やってるんだ?」

 教室に入って開口一番に中村に言われた。

 いや、なんでそんなベタなミステリーみたいな説明されてんだよ?

「ああ、いや……そのあれだ。超常現象の正体を解き明かして災害から人類を守る使命を帯びた部活だ」

 かなり正直に告白したのだが、中村は腑抜けた顔で何だそりゃ、と諦めたようだ。

「それよりさ、これはガセだと思うんだけど、お前のその使命を帯びた部活にあの櫛木みやも入部したって言う奴がいてさ。あの超絶お嬢様が学校の部活なんてあり得ないとは思ったんだけどな。信頼できる筋からの情報によるとこの一週間お嬢様も学校を休んでたらしくてな」

 何と答えたものかちょっと悩んだが、耳元で刀尋達も言えば良いと言っているので肯定してやった。

「マジか……お前の部活って何なんだ? 学校案内や公式の資料には出てないよな? 誰でも入れるってわけじゃなさそうだよな」

 何とも言えない顔で中村が言う。残念ながら、と俺は苦笑いを浮かべた。

 俺の隣のこいつらが視えないって事は入部は無理だ。

 その後も天やナデシコの事など色々と訊かれたが、正直たいして話すこともない。呪器とか言ノ葉とか言ったところで伝わらんだろうし。

 

 一週間ぶりに授業を受けて放課後になった。もともと成績の良い方ではないんだが、テストの点数とかもSNKだからって事で忖度されたりするんだろうか。だったらいいな。

 鞄を手に立ち上がると、当然のように天が近づいてきた。

「行きましょうか刀哉」

 俺が呼び捨てにされているのに中村が何か言っていたが、もう放っておいた。天とは性別とか関係なしに戦友だからな。少なくとも俺はそう思っている。

 教室を出て裏山の部室へ。ここで随分たくさんの妖怪と戦ったなと思い返す。まだ一週間あまりの事なんだが、随分と濃い時間を過ごしてしまったもんだ。

 室内には滝先輩と石塚、それに櫛木みやが既に来ていた。

「ああ、水無藻くんと刀尋さん。それに……さやさん、ですか?」

 滝先輩が俺の両隣でプカプカ浮かんでいる二人を視て言う。

「この姿では初じゃのう。よろしく頼むぞ」

 刀尋と同じくらいのサイズの白い着物に赤い袴の巫女衣装を着た黒髪少女。

「まったく……なんでこうなってるんだか」

 大天狗と一緒に天に還ったはずのさやは、何故かミニ巫女になって俺にくっついているのだ。

「ふむ。何故であろうのう。儂にも正直わからぬが……そうじゃな。分祀、という神の祀り方がある。同じ神をいくつかの神社に分けて祭神とするものじゃ」

 いやお前神様じゃねえだろ。

「考え方、捉え方の問題じゃ。どちらも実体のないもの、人の認識によって形づくられるものという意味では変わりあるまい」

 よくわからない理屈を捏ねるのを、隣で刀尋がうむうむとやたら頷いている。

 それにじゃな、と指を立てて何やら言い出した。

「拙者ら『刀』にも鞘が必要だったという事ではないのか?」

 刀尋がそう言ってドヤ顔を決める。いやうまくねえよ。

「おお、これは一本取られましたな! 流石刀尋殿」

 さやが大袈裟に反応して二人で大笑する。わはははは

 いや、俺の両隣で老人会開くのやめてもらっていいですか?

「あ、あの……ご先祖さま。お初にお目にかかります。櫛木みやで御座います」

 ぼんやりとしか視えていないであろうミニ巫女に深々と頭を下げる銀髪美少女。

「色々と迷惑をかけたのう。お主のおらぬ間、体も借りておったしな」

 考えてみるとこの二人も複雑な間柄だな。

「そう言えば絹先輩は……まだ?」

 気になっていた事を訊くと、石塚が

「まだしばらくリハビリが必要らしい。だが繋いだ右手の経過は順調だそうだ」

 そうか良かった。

「あ、刀哉様お茶でも」

 立ち上がりかけたみやを石塚が抑える。

「みや! お前がそんな事をする必要はないだろう」

 と、周囲を見回して、ええい仕方ないと自分で流し場へ行く。

「そう言えば、いつも妖怪が出てくるわけじゃないですよね? 何もない時はどうするんですか」

 天は無言でお札を書き始めていたので、 俺の質問は滝先輩が答える。

「そうですね、そういう日は待機です。つまり特にやる事はないです」

 なるほど。と昨日に続いて虚無な時間を過ごす気になっていた俺の背後から声がした。

「残念ながら、そういう訳にはいかないようだ」

 開いた扉口にナデシコが立っていた。

「依頼だ。隣町だが、袋小路の道に何かの怪異が発生した可能性が高い」

 全員立ち上がり、表情を引き締めた。

「準備はいいな? ではSNK、スーパーナチュラルノックダウナーズ、出動だ」


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スーパーナチュラルノックダウナーズ 和無田剛 @Wonda-5

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