完全擬態
火星基地の食糧増産ドームが完成し、野菜や穀物、そして家畜の生産を始めた。、観光用住居施設(ホテルマアース300人収容)が我々モグラ隊により完成し、これに合わせて地球からの火星旅行ツアーが始まった。参加費用は1人4億円とまだ高額だが初回の25人枠は既に満席で、今年の予約席は売り切れらしい。
そうなると火星に来た人たちに探検気分に浸れるような冒険ツアーを考えなくてはならないのだが、その探検ツアーをダニエルのチームがが立ち上げる事になった。我々モグラチームは、地下600メートルの氷の世界ツアーを担当する。
いよいよ火星旅行が商業ベースで本格稼働するのだ
そして・・
火星の北極に有るオリンポス山に向けて、長い長い地下通路も作る事になり、我々モグラチームも益々忙しくなっている。その為にさらに本社からの増員を要請している所なのだ。
そんなある日、渡辺が私の部屋にやって来た。
渡辺は浮かない顔で部屋の中をウロウロしていて落ち着きがない。
「ケプラー34bの住民がどこかに逃げたのなら、その行先への転送装置がある筈ですよね。もっとメモリアルホールで情報を聞くべきじゃあ無いですかね?・・ていうか、林が一人で行っているようなんですよ。あいつ、何で一人で行くんでしょうね。一人で行く必要がありますか?!」
「林が一人でか?そんな話は聞いてないぞ。あいつは何を考えているんだか、ちょっと林を呼んでくれ!」
暫くすると林が、相変わらずとぼけた雰囲気でやって来た。
「何ですか?急ぎの呼び出しって言うのは?」
「林君、君は一人でメモリアルホールに行っているんだってね・・」
「ああ、その事ですね。それはホールからお呼びがあったんすよ。後で話そうと思っていたんですがね。地下600メートルにある内のカフェを観光用に拡張してくれと急遽頼まれたもんだから、ついバタバタしててね。報告が遅くなってしまって・・」
「ホールからお呼びがあった?誰が・・どうやって?」
「夢枕に立ったんですよ。奇麗なお姉さんでしたよ。まずはお前ひとりで来いってね。あっ、大丈夫ですよ、次は3人で、来てくれってそう言ってましたから。」
「誰が?」
「だから、お姉さんですよ。」
「なに?お姉さんに会ったのか?」
「何回か会いましたよ。てっても夢の中なんですけどね。でもね、これが
「本当の話なのかあ!夢じゃあ無いのか?」
「いや。だから夢ですって・・あ、でも本当なんですよ。今度は3人で来るようにって言われたんですから・・」
「そうか、それじゃあ明後日の昼からでも、3人で確かめに出かけてみるか。」
「あ、俺はそれで良いですよ。あ・・抜け駆けじゃあ無いですからね、まじで本当なんですよ。」
林が部屋を出て行くと渡辺言った。
「夢枕・・・う~ん・・社長さんは信じられますか?」
「夢枕で美人のネエチャンか・・・本当に夢じゃあ無いのか?」
「この頃、林は絶対変ですよ・・あいつ、アホには違いないんですが、この頃・・アホの方向性が違うんですよね。」
「まあ、明後日になれば何か解るだろう。」
◇ ◇
その日が来た。
私と渡辺は林を伴ってメモリアルホールに来ていた。
お立ち台の前で林が言った。
「あ、今日はね。3人一緒にお立ち台に立つそうなんですよ。」
「ネエチャンにそう言われたのか?」
「そうなんですよ、昨夜も夢で会ったんですよ。これがまた、いい女でね・・」
ホールに入ると林の言う通り、3人で台の上に上がった。
何時もの通り目を閉じて瞑想に入る。
板は我々を受け入れ・・
我々と意識を共有する・・
我々が板と繋がり全てを理解するのだ・・
・・宇宙は過酷である・・
・・水は必須だが・・
・・放射線が違う・・
・・重力が違う・・
・・電磁波が違う・・
・・バクテリアが違う・・
・・それらが・・
・・遺伝子に障害を与え・・
・・長期的には我々は滅びる・・
・・
・・外面的な擬態では無く・・
・・遺伝子レベルの完全擬態・・
・・組織も細胞もDNAも擬態する・・
・・我々は地球人に成るのだ・・
・・
・・石原、お前の務めは・・
・・完全擬態には人の意識が必要だ・・
・・渡辺、お前の勤めは・・
・・社員を全員ホールに呼べ・・
・・林、お前の勤めは・・
・・お前がダニエルに成れ・・
・・完全擬態には意識が必要だ・・
・・時は来た・・
・・我々は人間に成るのだ・・
・・the time has come・・
メモリアルホールにを出ると我々はローバーに乗って黒い箱に向かった。そしてそこから火星の黒い箱へ・・
火星に着くと我々はローバーで火星のセントラルステーションを目指す。
この頃、いろいろな事が重なり、私は気分が落ち込んでいた。林の事も心配だった。渡辺の言う通り、この頃の林は変だった。その上私は全てを渡辺に依存して、渡辺に全てを任せ過ぎていたのだ。それについても済まないと思っていた。
しかし今日は気分が晴々している。自分がすべきことが分かったからだ。
私が言う。
「渡辺君はわが社の社員全員を連れてメモリアルホールに行ってくれ、順次お立ち台に立たせるんだ。林君はダニエルの所に行ってダニエルと入れ替わるんだ。他の人間には気が付かれないように素早くやってくれ。」
林君が言う。
「上手くやります。後はダニエルの部下を順次入れ替えて、ホールの準備をすれば良いだけですよね。」
渡辺君が言う。
「社長さんはどうされるんですか?」
「私は火星旅行ツアーで来た人たちを、火星探索に連れて回る役割があるんだ。もちろん黒い箱を経由してメモリアルホールにも立ち寄る。そこで体を入れ替えて地球に帰って頂くんだ。替わったのは身体だけだ、本人は何も変わらない。」
人類にとって地球は楽園だ。
我々は地球人に完全擬態をして地球に帰るのだ。
我々の地球へ・・
**シーズン1終了しました。
**シーズン2へ続きます。
完全擬態エイリアンに体を乗っ取られた3人です。しかし、意識だけはまだ人間のものです。彼らはエイリアンの指示するまま、エイリアンを地球に送り込むのでしょうか?
そして、完全擬態エイリアンと人類の判別は出来ないのか?シーズン2では林が中心にストーリーが展開していきます。
モグラ部隊 紅色吐息(べにいろといき) @minokkun
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