第12話 親友でいさせてくれるのなら

 俺が遙に黙って莉子と電話をしていたこと。俺があの時莉子に言ってしまったこと。それら全てを俺は遙に話した。もしかしたら、俺たちはもう友達ではいられないかもしれない。たとえそうだとしても、俺は俺の招いたことの責任を取るため、そして俺にとって何より大切な二人の幼馴染のために話さなくてはならなかった。


「悪かったとずっと思ってる。すまない」


俺は話の最後にそう言って遙の返事を待った。


「山田のせいじゃないよ、莉子に無理をさせてしまった僕の責任だ」


「怒らないのか?」


「莉子のためだろ?僕の愚痴を話せる相手なんてお前しかいないよ。僕が莉子の話を山田にしかできないのと一緒で」


遙は穏やかにそう言った。たとえ、激昂されようと俺は全てを受け入れるつもりでいた。だが、遙ならばきっとそんなことにはならないと思っていた。だからこそ、俺はもう一つだけ遙に伝えたいことがある。俺は静かに頷いて遙の方を見た。


「最後に一つだけいいか?」


遙は優しい。だが、その優しさゆえ全てを背負い込んでしまう。いっそ俺のせいにしてくれればよかった。けれど、遙は優しいからそんなことはできない。それならば遙を許してやるのが、許させてやるのは俺の役目だ。


「俺はお前の気持ちの全部がわかるわけじゃない。お前らの間に何があったのか、俺は莉子からしか聞いてないし、実際に見たわけじゃない。きっと莉子が話したのも全部じゃないとも思う。」


それでも伝えたいことが俺にはある。


「それも踏まえてやっぱり遙のせいじゃないと俺は思う。多分誰のせいでもない。あの頃の莉子は俺でもわかるくらい辛そうだった。けどさ、お前と遊んできた日の話をするときは楽しそうだったよ。」


「そうなのかもしれない。けどさ、僕が莉子を追い詰めてしまったことは事実だ。一緒にいたらの辛いのはきっと莉子だよ」


遙は淡々とそういった。


「莉子とのLINE見せてなかったな」


あの日以降も僅かではあるが交わした会話をスクロールして、俺は遙に莉子がいなくなった日のLINEを見せた。


「さっきも言ったけど、俺には全部はわからん。けど、莉子はお前の負担になりたくなくてお前に黙っていなくなったんだと思う。莉子は遙のことめちゃくちゃ好きだったんだぞ。それがどれだけ辛いことかわかるか?」


遙は残酷なまでに優しく、そして純粋だ。俺はそれを長年憎んできた。けれど、それは遙が嫌いだってこととイコールではない。むしろ、俺は遙のそういうところに惹かれていた。もしかしたら、莉子も遙のそう言うところが好きだったのかもしれない。けれど、莉子はそれゆえ遙と一緒にいることに苦しんだのだろう。


「莉子はお前といることが辛くなっていなくなったんじゃない。遙。お前を思ってお前から離れて行ったんだよ」


遙はLINEの画面を凝視して動かない。ただ、その表情から遙の絶望に似た感情が感じ取れた。


「そんなこと、僕には一言も」


遙は画面を見つめたまま消え入るような声で言った。


「当たり前だろ。言ってもお前がもっと無理するだけだろうが」


「それなら、やっぱり僕のせいじゃないか」


遙が声を荒げた。俺も咄嗟にいいかえしそうになった。だが、大切なことだからこそ落ち着いて遙に伝えたかった。俺は一度深く息を吸って話を続けた。


「だから、そこが違うんだよ。莉子の引っ越しは仕方のないことだし、お前を頼らなかったのもお前といたら辛いからじゃない。莉子はお前を思ってお前に頼らなかったんだよ。」


莉子が言わなかったことを俺が言ってしまっていいものかとも思った。けれど、それすら知らずに二人が別れることはあまりに辛すぎる。


「本心ではお前といたいに決まってるだろ」


伝えたいことはこれで全部だった。

 すでに12時を過ぎていて、遙の家に来てからすでに3時間が経とうとしていた。本当は予定なんてなかったが、俺は遙に昼から予定があると言って家に帰った。小学生、中学生時代と足繁く通ったマンション間の遊歩道。黄色く塗装されたアスファルトの両脇には街路樹として桜の木が植えられている。3月の初旬はまだ肌寒く桜はまだ咲いていなかったが、蕾だけで春の訪れを待つ桜の木がその日はなんだか愛おしく思えた。言いたいこと、言えなかったことは全て遙に伝えられた。遙がこれからどうするのかは俺にはわからない。けれど、遙がまだ俺を親友でいさせてくれるのならば遙がどんな決断をしようと今度は素直に受け止めようと思った。

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君とやり直そうと、そう思っていた 野上けい @nogamikei

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