09
その後しばらくくだらない話などして鳴滝と別れた。
公園からピンクパンプキン号を回収し、ようやく我が居城に戻ってきてソファに身を投げ出し古びた天井を眺めていると、今日は一日いったいなんだったんだってもやもやが湧き上がってきた。
出だしは快調だったんだよな。目覚めスッキリやる気バッチリででかけたはずだったのに、あの公園で連中にあってからか、調子が狂ったのは。
でも結果思いもよらないほど陽子さんのあれこれが知られたのは収穫だった、ってか、やっぱ陽子さんの思惑通りに転がされたような気がしてならない。
ま、それはいいんだけどさ、それならそれでもうちょっとすんなり進められる道もあったような気もするんだよね。
それに結局陽子さんに会えなかったのが空振り感を増してくる。
なんて、取り返しのつかん愚痴はこのへんにしといて、これからの出方をちょっと検討しなきゃなんだけど。
気になるといえば気になるのが鳴滝に取り憑いているのであろう得体の知れないあの影。鳴滝という男、それなりの恨みを買った事がある人物だというのはなんとなく想像もつくが、そんなかで何人かは実際手にかけたのだろうか。
そういうのはちょっとなあ。体質的に殺されたことのある人と遭遇するのはまああるわけだけど、殺す側の人たちとの交流はなあ。
かよわい女子高生の手には余るってやつだぜ。
と、アタシの思考が気になったのか、久しぶりにヤスくんが天井に現れた。
今日は真っ白で大きなオオカミみたいな姿だ。
ヤスくんはずっとアタシの城を守ってくれている頼もしいガードマン。ま、侵入者にとってみりゃ恐ろしい、このへん一帯を統べる霊なんだが、普段はアタシに気を使ってかめったに気配を現さない。
ただ、昨日佐奈美さん、いや陽子さんがここにきてあっという間に消耗してしまったのは彼の力の影響だ。そのへんの圧はどうやっても周りの霊的な存在を萎縮させる。
「やぁ、久しぶり。」
声なんか出さなくても意思疎通にはなんの問題もないのだが、アタシは声をかけた。誰かと話したい気分だったのかもしれない。
「ヤスくんさ、昨日うちにきた女の子、どう思った?悪い子じゃないよね、絶対。」
ヤスくんからは肯定の気持ちが流れ込んできた。
ヤスくんはめったに喋ってくれない。というか、陽子さんみたいに普通にしゃべれる霊が少数派なんだが、ヤスくんが人間だったのはもう何百年も昔の話なのだ。言葉だって、もう忘れたいのかも知れない。
「なんか思ったより厄介なトラブル抱えてたみたいなんだけどさ、そういうほうがほっとけない気分になるじゃん?やっぱ面食いなのかなアタシ。」
ヤスくんは苦笑いだけを返してきた。そりゃそうだよな。こんな話。
「もしかしたらさぁ、ヤスくんの力、借りることになるかも知んない、今回は。って、なんだかんだいっつも助けてもらってるのはわかってるけどさ。」
「…ああ、承知した。」
ボソリと、ヤスくんが返事をくれた。
その声でアタシは一気にほぐれた。一日の倦怠感が溶けて流れていく気がした。
「ありがと、ヤスくん。じゃあアタシ今日はこの辺で寝るわ。明日はちゃんとバイト行かなきゃだし。おやすみ。」
アタシがソファから身を起こすと、ヤスくんは天井から消えていた。
アタシはベッドルームへ移り、部屋の電気を消してカーテンを開けた。
荒れた木々の向こうに街の明かりが見下ろせる。アタシは大きく伸びをしてあくびをひとつ、それからベッドに潜り込んで目を閉じた。
神はアタシに死ねという 五道 正希 @MASAKI_GODO
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