出来上がった本と

 この大陸ではどの国であろうと一つの物語が語り継がれている。


 物語自体はどこにでもありそうな内容で、『死』とはなにかだとか、どうして生きているのか、とかそういった内容。

 どこぞの宗教じゃないんだから、と思うけれど、少し成長してからまた読んでみるとこれが以外にも心に来る。どこか惹かれるような不思議な引力を持っている。同業者から聞いた話では、この本は4冊だけ本人の手書きである。らしい。

 その英雄が生まれた場所で本屋を営む身としてはそれが売り上げに繋がればと思うけれど、近くに大きな図書館があるっていうんじゃそうも簡単には行かない。


 そんな不思議な物語に惹かれる理由は他にもある。

 なんと200年以上経ったというのに、この世界のどこかに、登場人物たちが確かに存在する、という。

 とは言っても簡単に出会えるものではなく、”たまたま”異国への移動中に、雪山で遭難しそうなときに助けてもらった、だとか、護送中に蛮族から、盗賊から守ってもらった、とかたしかに英雄像ではあるけれど、別にどこの誰でもできそうなことばかりが噂になっていてとてもじゃないけれど信用できない。この本屋も救ってくれないかなぁ。



 ある日、珍しい種族のお客が来た。

「『一生のスパークル』をお一つくださるかしら、」

 背丈のある、多分隣の孤児院で子どもたちの世話をしている、かれと、羽が生えた奇麗なお姉さん、といったところか。年はいくつか自分の目では分からない。

 そもそも、彼は良い噂を聞かない。

 孤児院で子供の世話をしている、と言うけれど私生活では何をしているのか分からないとか、気付けば後ろに立っているとか、どうも人っ気を感じられない。分かってはいるけれど後ろを一度見ておいた。当然誰もいない。

 「うちとしては買ってもらえるのは良いんだけどね、となりの図書館で借りたほうがいいんじゃないのか?」


 これはいつも買っていく客に言っている決まり文句だ。大抵は深い理由はなく、なんとなくだと言う客が多い。


「いいんですよ、新しく刷ったらしいので記念にと思いましてね。」

 見た目通り変わったお客さんだ、と思った。

 この地域ではあの本だけ、店主に尋ねないと購入できない。そこそこ高価なものだから買ってくれるのはありがたい話だ。

 そして準備していましたと言わんばかりに、すぐ横においてある本の城から一冊手に取る。

 「はい、それじゃあ350大銀貨ね、って。おかしいな、少し前に届いたはずなんだけど」

 手に取った新冊のはずのそれは、少し古びていた。

 するとどういうわけか、二人は目を大きく見開いて驚くも、どこか嬉しそうな顔をしている。


 「それは店主さんがお子さんにでも上げてください、私達は別のを貰いますね。」

 女性はそう言って、お金をきっちりと払って店をあとにする。


 著者欄には、そこにあるはずのない3人の名前が書いてあった。

 少し掠れた筆跡で。


 『誰も覚えていない、名もなき私達は、誰のために、何のために、残すのかを探す。』



--------


 生きていたっていう証が形で残るのは本当に良いことだと思います。

 今回はそのほんの一部です

 そのときの、その時代の当たり前は僕たちには残念ながら理解できません。

 だから補って想像して、感じ取るしかないと思います

 それができないかもしれないのは私の力不足です。

 拙い文章から読み取れ得るもの、それが私と彼の伝えたい想いです。

 まずはここまで呼んでくれて、ありがとうございました。

※誤字等で直したりしますが、内容が大きく変わることは多分ないと思います、もしあったらまた読んでくれると嬉しいです。(変更するとすればこれからのものがたりに不都合、もしくは都合良くなることです。)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

一生のスパークル 華猫 @lkaneko5

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ