照り焼きの話

おこあ

第1話

僕は今日友人の友人の誕生会に招かれている。

僕はその友人の友人「ゆってい」がどんな人なのか、ましてや本名も知らないのだ。


そして、僕は「ゆってい」の為に催される手作りピザパーティーの買い出しを頼まれた。

僕は買い出しこそがそういうパーティーの醍醐味だと思うのだが、「ゆってい」の友達はどうやら違う様だ。


「ゆってい」をはじめ、参加する人の好みは勿論知らない。

なので、とりあえずトマトやソーセージ、鶏肉などを買い込み、僕の友人でもある田代に連絡を入れた上で会場へと向かった。


会場の「ゆってい」の家は、思ったより僕の家から近かった。

そして「ゆってい」は僕の思っていた「ゆってい」とは違い清潔感のある人物だった。

すでに他の人達は集まっており、何故か田代の顔は白塗りにされていた。


もう僕はこのパーティから極めて帰りたかったが、総勢8名でピザを作った。

7人がマルゲリータを作っているうちに僕は照り焼きピザを完成させた。


いよいよ焼き上がり、みんなで食べ始めた。


僕がマルゲリータを切り分けているうちに照り焼きピザは無くなり、気まずさのあまり他のピザは味がしなかった。


「ゆってい」はずっと笑っていた。


田代はずっと白塗りだった。


お開きとなり、みんな帰って行った。

みんなは楽しそうだった。

僕は「ゆってい」とは一度も話さなかった。


帰宅した時もう夜の10時だったが、僕はピザを食べた気がしなかったし、照り焼きピザがどうしても食べたかった。

だから一番近所のピザ屋に電話を掛け、照り焼きピザを注文した。

配達して貰う様な距離でも無いので歩いてそのピザ屋へと向かった。


店へ到着し、扉を開ける。


そこでピザを買い会計をしていたのは

「え、あ、あ、ゆってい やん」


「ゆってい」だった。


「ゆってい」は店の外で僕の会計を待っていてくれた。


「あ、っす。」

「僕もさ、照り焼きピザ食べたかったんだよね」

「・・・だよね。」

「話せて良かったよ、じゃあね」


ピザ屋の灯りの下でも「ゆってい」は清潔感のある僕とは違った空気を纏っていた。


そんな「ゆってい」と分かり合えた様な気がして小踊りで帰路に着いた。


そう言えばパーティーの間「ゆってい」はずっと笑っているだけだった事を思い出した。


秋が顔を出し始めた頃だった。

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照り焼きの話 おこあ @okoa

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