「起きた?」


 彼女がいる。そして身体が重い。ということは。


「戻ってこれたか」


「うん」


「おまえの同僚に感謝だな」


 彼女。ちょっとだけ行動が止まる。カーテンを閉めようとしていたのか。


「見てたの?」


「見えてた」


 彼女がカーテンを閉める動作を再開。


「ありがとう」


「一応、こっちも」


 目と耳を塞がれる。彼女のどこの部位がどう塞いできているのか、絶妙に判断がつかない。


「わたし、もうばかじゃなくなっちゃった。どうしよう」


 声は聞こえる。ということは、塞いでいるどこかの部位に顔が含まれる。考えるのが面倒になったので、彼女の声に耳を傾けるだけにした。まだ身体と心が定着しきっていない。


「酒呑んでないのは?」


「あなたが起きるまで耐えようと思って」


「酒かぁ」


 呑む気はなかった。思考を曖昧にしたくない。でも、彼女は、思考が曖昧になることを望んでいる。


「あなたが起きたから、わたし。もうばかでいいよね」


「そんなに簡単に切り替えられるのか?」


「わかんない」


 彼女。ちょっと震えている。というか、頭経由で骨伝導で喋っているのか。目と耳が塞がれているのに、喋れるし聞こえる。


「任務はたのしい?」


「たのしいけど、あなたがいないと全てが無味乾燥だった」


 無味乾燥。四字熟語がすぐ出てくる辺り、すぐばかにはなれないらしい。


「いや、前もこれぐらいすぐ出てくるから」


「じゃあ、前から頭は良かったんだな」


「あなたがいれば、なんでもいい」


「そっか。どうでもいいか」


「そう。他のことはこう、ちゃちゃっと適当に」


 あ。ちょっとばかっぽい発言してる。わざとやってるだろ。


「ばれた」


 彼女。ちょっと位置を変更。


「肩が凝る」


「それ。たぶん目のつかれだよ」


「目?」


「ひとに気を遣ってるとき、目を使ってるから。たぶんだけど」


「目かぁ。でもまた肩揉んでね」


「もちろん」


「よし。この位置ならわたしも肩凝らない。ずっとこのままでいいよ。ずっと。3日間ぐらいこのままでいい」


「それはさすがに大雨過ぎないか?」


 彼女に覆われて、分からないけど。どうやら外は雷らしい。

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雷雲 (Hi-sensibility) 春嵐 @aiot3110

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