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 なんかぞろぞろと人が来て。

 彼が連れていかれた。気をきかせてもらったのか、わたしも一緒に連れていかれた。


 ホスピスの一室。

 特に処置もされず、着替えだけされた彼が横たわっている。


 さわってみる。


 冷たい。


 呼吸してない。


 脈もない。


 なんか人が来て。

 魂が抜かれたとか色々言われたけど。頭に入ってこなかった。ばかだからとかではなく。衝撃がすごすぎて。からだと心が何も受け付けない。


 それがわかったのか、説明してたひとは説明をやめて、いつでもこの部屋に来れること、何かあったらすぐに連絡ができること、全員が彼を取り戻すために尽力することを約束してくれた。


 その日から。

 わたしの世界は変わった。


 頭のなかの、繋がらなかったところが繋がってしまった。彼の。これは彼の思考回路と似ていた。

 塾も、どうでもいい英才教育も。全部終わらせた。そんなものがなくても。思考回路が回ればなんとかなる。


 頭がよくなった。

 よくなりたくなかった。

 ばかでいたかった。

 彼の隣で、ただ、にこにこしていたかった。それだけなのに。脳は思考することをあきらめない。


 わかっていた。

 私自身が望んだことで。彼を助けるため必要なものを考えるために、頭が回転し始まったんだって。わかっているけど。


 どうしようもなく、アンニュイだった。

 彼は、いつもこんな感じだったのだろうか。

 そんなことすら考えてしまう。そして、答えはいつも、彼のほうが。


 彼のほうがもっとずっとつらかった。

 雷から逃げて。止まらない思考回路を抱えて。それでもまだわたしのとなりにいてくれて。


 そういうところにしか行き着かない。

 わたしがどんなに彼のことを思って、考えても。彼のアンニュイな部分にはふれられないのだと、自覚させられる。わたしは雷がこわくないから。


 それでも、まだ。彼のためにできることのために。わたしはここにいる。まだ。わたしは生きている。だから、彼のために。


 そういう日々が続いた。

 いつのまにか夜が来て。朝になって。そういうのが続いて。


 大人になった。


 分からないことが、分かってしまう歳に。そういう時分にさしかかってしまった。


 ベッドに横たわる彼を、眺める。

 彼が、起きたとき。わたしは、そばにいないほうがいいんだろうな。そんなふうに思うようになった。事実、彼の時は止まったままで。わたしは老いた。数日前に、酒が呑めるようにまでなってしまった。もう言い訳ができない。おとな。


「はぁ」


 ため息。

 彼の魂を取り戻す。それも、結局。わたしではない誰かの任務。わたしは、街を哨戒して、最後にここに寄るだけ。


 携帯端末。光る。


『追加の任務だ。もう一周哨戒を頼む』


「了解」


 彼を、もうちょっとだけ眺めて。

 街に出る。


 夜。

 綺麗な星空だった。どうでもいい。

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