第3話
どこだ。
彼を探す。
どでかい雷の音。さすがに傘は差せない。幸いなことに、風がない。ものすごい雨と、あと雷だけ。
彼はたぶん、呼吸できてない。だから、声を出して探しても見つからない。ばかみたいに、走り回って探すしかなかった。
携帯端末。ぜんぜん返信がない。
彼のことを考える。
彼がいそうな場所。彼が好んでいる場所。彼が。彼の。彼が。
彼のことが好きだった。だから、彼の隣にいたい。雷のせいで彼の呼吸が止まるなら、彼の目と耳をふさいであげたい。だから。彼を探す。
道の真ん中。
「あっ。いたいたっ」
彼がいた。叫んでみるけど。応答はない。そうだ呼吸ができてないんだった。
とりあえず雷だけ避けないと。道の真ん中から、近くの建物の影に引っ張っていく。こういうときのために、ちょっとだけ筋トレしてきた。頑張って彼を動かす。
彼。
呼吸がない。
体も硬直している。
脈がごくわずかにふれているので、生きてはいる。呼吸が浅すぎて死にそうなだけ。
キスをした。じっとかがんで。ゆっくり。静かに。彼に呼吸を促す。人工呼吸は呼吸が完全に止まっている人間に行うものなので、これはただのキス。好きなひとだからキスしてもいいでしょ、のキス。
マッサージ。胸の辺りからはじめて、だんだんと身体の末端に。呼吸しにくくて血の巡りが急速に落ちているので、それをゆっくり、本当にゆっくり、回復させていく。心臓マッサージとかではない。ただ揉んでるだけ。
「起きて。起きて」
揉みながら、声をかける。生きてるかな。生きてたらしゃべってほしいな。そんな思いで、声をかける。
「起きて。目を覚まして」
よいしょ。よいしょ。マッサージ。
だめ押しでキス。
もう一回マッサージ。
「ねぇ」
もう一度。
「起きてよ」
もう一度。
「おねがいだから」
何回も、何回も続けた。
続けたけど。
彼は冷たくなったままだった。
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