第47話 本戦:作戦会議

「それでは、明日の作戦を決めましょう」


 夕方合流した仲間に向かって、俺は話した。メンバーはハルさんとサラヘイム村の選手のドルハさん、シズクさん。そしてドワーフ村の選手2人だった。


「今回の目的は、アルガン街の順位を落とすことです」


「なんか、陰険じゃな」


 そう話したのは、ドワーフのサーシャさん。彼女は、鉄壁の盾と鎧を持っており、守備に特化した選手だ。


「同盟組まないと3位を狙えないと、体で理解してもらうためですよ」


「わかっているんじゃが、面白くはないな」


 サーシャさんは首をすくめてみせた。


 俺はスポーツでも力の勝負より、事前の準備とか戦略を考える方が好きなんだけどなぁ。


 こればっかりは好みだからしょうがない。


 前回、アルガン街は5位で、ドワーフ村は12位だ。アルガン街を10位ぐらいまで落とせれば、ひとまず成功だ。


「作戦はどうするんじゃ?」


「数的優位を築いて、戦うことを軸に作戦をたてます」


 いわゆるランチェスターの戦略だ。人数が多いほうが加速度的に優位を築ける。


「だがドワーフ村は2人、サラヘイム村は3人じゃろ」


 アルガン街は、各拠点に4人で攻めてくる。だから、数的優位を作れないと言いたいのだろう。


「俺たちは5人だから、人数は勝ってるよ」


「カイ、ルールは分かっているか?」


 ルールはポイント制。

 1人倒すと1ポイント。倒された人は退場。

 拠点を倒すと3ポイント。

 拠点を落とされたら負け。

 取得ポイントの合計で順位が決まる。


 サーシャさんが『ルールを知っているか?』と確認したのは『拠点を落とされたら負け』のことを指している。


「サラヘイム村の拠点は放棄します」


「何を言ってるんじゃ。それだと拠点が落とされた時点で負けじゃないか?」


「負けても、選手は退場になりません。ポイントが入らないだけです」


「本当か?」


「ええ、過去の記録でも拠点喪失後、敵を倒しているケースを確認しました」


 ハルさんが親指を立てた。これは、ハルさんに調べてもらっていた内容だった。


 サラヘイム村が他の領土に比べて唯一勝っているのはハルさんが集めた情報だ。これを有効活用しない手はない。


 この情報量を元に、ハルさんにルールの盲点をいくつか調べてもらっていたのだ。


「ということで、ドワーフ村を叩きに来た部隊をサラヘイム隊で奇襲します」


「なるほど。しかし、5対4だとぎりぎりだな」


「アルガン軍の主力はサラヘイムの拠点を襲うので、大丈夫でしょう」


 今日、コバエ長を徴発した理由の1つにそれがあった。頭に血がのぼったコバエ長は、全力でサラヘイム拠点を叩きに来るはずだ。


「殲滅後、アルガン拠点に向けて進軍します」


「アルガンは残り8人じゃろ。そうするとうまくいっても、8対6で、こっちが不利じゃが?」


 サーシャさんは俺の顔を覗き込んだ。数的優位を軸に考えるとなると、この作戦はまずいだろって言いたいんだろう。ふっふっふ。その点は抜かりなく準備しているのだ。


「ハルさん、ラキモン領との交渉はどうでしたか?」


 ラキモン領は南西に位置する領土でアルガン街と隣り合っている。ここ2年3位に入っている領土だ。


「情報は流したので、うまく乗ってくれるでしょう」


「どういうことじゃ?」


「ラキモン領には、毎年アルガン街が開始直後4人の守備しか残してないことを伝えてあります」


 この情報を元にラキモン領は、アルガン街を開始直後襲うはずだ。


「ラキモン領の選手も含めると、こちらの人数が上回るということか」


 サーシャさんは、腕を組んで考え事をしているが、納得したようだ。


 想定どおり行けば、これでアルガンは陥落だ。


「戦術の話は以上で、次に具体的な話をしましょうか」


「そうじゃな」


「リーダーはガルドさん。副リーダーはサーシャさん」


「おう、任せろ」


「サーシャさん、頼んでおいた孥の改良はできましたか?」


「もちろんじゃ」


 サーシャさんは、奥から孥を運び出してきた。あれ? なんかサイズが大きくなっているぞ。孥というか、地面に設置するバリスタに近いイメージになっている。


「シズクと話して、弦の張りを強力にしたんじゃよ」


確かに、シズクさんの弓は張力がバカ強い。そのノウハウを使ったのか。


「木を薄く張り合わせることで、弓の張りを強力にするなんて、思いもつかなかったよ。シズクは面白いのう」


「ハルさん、装置みたいになってしまいましたが、持ち込み大丈夫ですか?」


「大丈夫よ。開始時に持ちあげていることが唯一の条件だから」


 よし、だったら持ち運ぶか。開始時だけだったら、なんとかなるだろう。


 待てよ。持ち上げていることが唯一の条件だったら、武器や防具じゃなくてもいいのでは?


「みなさん、面白いアイデアが浮かびました。内容は……」


 こうして、作戦会議を続けた後、翌日の本番を迎えた。

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俺は最弱、だが最強のギルドを作らせていただきます!! 村人10人の辺境の地から成り上がる、村とギルドづくり 白鷺 潮 @shirasagi_ushio

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