第46話 本戦:争奪戦の前日

 原始中央領にやっとついた。


 街が近づくと、遠くからでもすぐにわかった。というのも街の中央に、ビル10階はあろうかという塔がそびえ立っていたからだ。


 その塔は原始教の総本山の塔らしい。それだけでも、この宗教の力の強さがわかる。


 原始中央領は三首争奪戦で毎回2位の強豪領。領の統治は原始教の宗主が担っている。ということで、宗教色が強い領地だ。


 大陸の中央に位置して、主要領地の流通の中継地になっている。恵まれた立地で、強さと影響力を発揮している領地だ。


 街に入るとすぐに大きな市場が広がっていた。サッカーコートの2面はあるだろうか。すごく広い。


 だがおかしい。人がほとんどいない。


 まだお昼なのに何でこんなに人がいないんだろうか? 道路を見るときれいに掃除されているので、廃れているわけでもなさそうだ。


 市場の偵察をしたがったがしょうがない、大会が終わってから見てみるか。総本山の塔近くの宿舎で合流する約束だったのでそこに向かうことにした。


 市場を抜けて中央に進んでいくと、飲食店が並んでいる場所にでた。昼間だというのに多くの人が酔っ払っている。


 しっかし、どうなっているんだこの街は?


 交易の中心地だから活気溢れた街を想像していたが、閑散とした町並み。


 原始教の総本山だから厳粛かと思ったら、酔っ払いだらけ。


 なんともチグハグな街だ。


「よう、一緒に飲まないか?」


 酔っ払いに話しかけられた。髪はぼさぼさで、服装も小汚い。浮浪者っぽいぞ。


 俺はその声を無視して、歩を進めた。


「カイ、つれないじゃないか。俺のこと忘れちまったか?」


 えっ、知ってる人? 人が多い街だから、知りあいに合うことを想定しておくべきだった。他人の空似ということで切り抜けるか。


「どちら様でしたっけ?」

 

「おいおい、俺のことまで忘れちまったのか? 仕事のこと全部忘れてバケーションだと思って楽しめとはいったが、それはひどいだろ」


 仕事ということは、中央ギルドの人か。他人のふりをし続けてもいいが、そうすると自分の過去を知る機会がなくなってしまう。


 どうすべきか? 


 結局、男について居酒屋に入っていった。


「サラヘイム村での暮らしはどうだ?」


「楽しいですよ。動物を狩ったり毎日忙しく暮らしています」


「俺の紹介のおかげかな」


「何の紹介ですか?」


「アルガン街のギルド長に紹介文書いてあげただろ」


 ああ!! この人俺を左遷した人か。ということは、俺の元上司とか偉い人なのか。


 そんな仕打ちをして、よく平気で俺に声をかけられるよな。


「なんで、左遷したのですか?」


「話しただろ。アルガン街の配下としてサラヘイム村に忍び込むためだって」


 えっ? 忍び込むって、もしかしてスパイ?

 

 昼間は優秀なギルド長。しかし、裏では別の顔を持つ。組織の闇を暴くため、命を省みずに忍び込む凄腕スパイ。その名もカイ。


 こっちの方が断然かっこいいじゃん。どうしよう。アルガン街のギルド長と敵対しちゃったよ。なかったことにできないかな。


 話によると、ギルドは近隣のギルドから独立して新設するのが普通らしい。中央ギルドが派遣すると敵対しかねないため、左遷という形にしたということだった。


「忍び込むって、目的を再確認させてもらっていいですか?」


「それは、まだまだ先の話だ。今は何もせずに、楽しく遊んでいればそれでいいよ」


「しかし、それでは……」


「何もしないほうがいいっていうことは、世の中あるんだよ。いいから楽しめ」


 潜入捜査だけど、目的は秘密って何なんだ? まったく理解ができない。


 そういえば、サラヘイム村に来ている貴族の冒険者のレオノリアさんも、何かの調査で来ているといってたな。彼にそれとなく聞いてみるか。


「ところで、あのきれいな女性。誰だったけか。そうハル。彼女とうまくいってるか?」


「ハルさんを知っているのですか?」


「言ってなかったけ? ハルからお前のスカウトが来たんだよ。それが、お前を派遣した理由の1つだよ」


 ハルさんが俺をサラヘイム村に招待したのか。そんなこと聞いたことがないぞ。


 知り合いと話をすれば過去がわかると思っていたが、謎が深まるばかりだった。


 そのあとは他愛もないない話をして居酒屋をでた。外はまだ日が高い。こんな昼間からお酒を飲むっていうのもおかしな感覚だ。


「では、次の店にいくぞ」


「ここでお別れしましょう。私は明日の争奪戦に出場するので」


 別れの挨拶のために手をふると、その手が通行人の顔にぶつかってしまった。


「お前、何するんだ。ぶっ殺してやろうか!!」


「すみません、わざとじゃ……」


 あっ!!


 ガラが悪い人かと思ったら、コバエ長だ。コイツもこの街に来ていたのか。こんなところで会うなんて、なんとも運が悪い。


 隣には、アルガン街のA級冒険者のゴバイさんも一緒だった。


「カイか。まだ懲りてなかったか。裏に来い、えっ……」


 コバエ長は話している途中に固まって動かなくなってしまった。


 ゴバイA級冒険者が、突然45度に頭を下げた。それに習ってコバエ長も頭を下げて、挨拶をした。


「お久しぶりです、中央ギルド長」


 この人中央ギルド長だったの? ギルド界の頂点じゃん。


「誰だっけ?」


「この人はコバエ長ですよ」


「コバエ長?」


 しまった。素であだ名で呼んでしまった。そもそも、コイツの名前何だっけ? 覚えてないよ。


「アルガン街のギルド長ですよ。お金に群がる様子から、コバエ長って呼ばれています」


 コバエ長はまだ頭を下げた姿勢のままだ。顔を真っ赤にして、震えている。


 はは~ん。中央ギルド長の前だから何も言い返せないんだな。今までの恨みを晴らしてやる。


「コバエ長は、弱い者イジメしかできないんですよ」


「カイをイジメているということか?」


「それも今日までですけどね。明日コテンパンに俺がやっつけますから」


 中央ギルド長のうしろで、アッカンベーとかしてコバエ長を徴発したがのってこない。つまらないなぁ。


「二人とも仲良くしろよ」


 中央ギルド長はそう言うと、俺達はその場を離れた。コバエ長は俺達が完全に見えなくなるまで、ずっと頭を下げたままだった。




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