第28話 温泉であったまーる

 お義姉様と入るホテルの温泉。そこは屋上にあった。


 屋上では夜景を見れるだけではなく、地下2000メートルから出てきた温泉を堪能出来る。


 その温泉が黒湯で疲労回復に筋肉痛、そして美容効果もある。


 しかも温泉で温まるだけではなく、夜景と夜空を見ることが出来るのだから贅沢なもの。


 月も見ることが出来る。今宵は満月。


 お義姉様とその温泉に入ってみたところ、それは気持ちよかった。


「気持ちいです。これまでの疲れが吹っ飛ぶかのようで」


「温度も丁度良く設定してあるしこの温泉は他の温泉と比較しても効果抜群よ。その分貸し切り代はあんたのを含めて高いけれどね」


「それくらい私が出します」


「いいのよ。夜景スポットに連れて行ってくれたお礼。それにこの温泉はロープウェイ会社で働いている限り何度でも入れるわよ」


「この温泉を何度でも入れるのですね……あの世にいるみたいです」


 私の冗談の言葉にお義姉様は暗い感じになる。


「あの世って、冗談でもそんなこと言わないで」


「はい?」


「あの世って死んでるみたいに。あんた生きてるじゃない」


「はい……でも私……昔はヤンキーで悪さばかりしていて……本当ならこんな場所なんて行くべきじゃないって……」


「あんたがヤンキーなことくらい知っているわ。今日あんたの何かしら? お友達とか悪い人っていうのとか?」


「失望……しましたよね」


 温泉に入ったまま黙り込んだお義姉様は私の前に移動する。そして私を睨みながら言う。


「そうね、したわ」


「そう……ですよね」


 涙目を浮かべる私を見たお義姉様が私の頬を撫でる。そして慰めの言葉を言ってくる。


「あんたのそんな弱気なところよ」


「へっ? 弱気って……」


「あんた、青葉にもそんな感じで告白したんでしょ?」


「そっそれは……はい……」


「そうね。でも本当は喧嘩できるくらい強くて空手も出来る。それに背も高くてセクシーなんて、女としてすごいじゃない」


「そんな……私は強くなんか……」


「青葉が水火さんのことを好きになった理由も分かるわ。大人の女らしいのに16歳でおまけに気弱。そもそも弱気なヤンキーってどうなのよ?」


 私はヤンキーの時、空手が出来た理由からも暴力などには自信があったこともあり、そういった事については強気に攻めることが出来る。しかし、そういった時代のことで私は青葉やお義姉様のような資産家の家族になって、おまけに贅沢すぎる温泉に入っていいのかと思ってしまう。


 それが嬉しくもあって辛くもあるから私は泣いている。


「私は……強くなんか……」


「さっきもその言葉聞いたわ。せっかくの絶景の温泉なのにしらけちゃったわ」


「申し訳ございません、お義姉様」


 この時のお義姉様は泣いている私を慰めようと必死だった。号泣せずにゆっくりと涙を流している私のために、体を洗ってあげると言い出した。


「そういうところよ。まあいいわ。水火さんはいい妹って感じよ。落ち着かないなら体でも洗ってあげる」


「ですが……私子供じゃ……」


「こういう時は体を洗われてあげるものよ。私が洗いたいからってのもあるの」


「女の子同士の体の触れ合いは……それに私は未成年ですし……」


「家族なんだし問題ないわよ。それに不倫じゃないから……私の夫である里志だって青葉の体をよく洗っているわよ」


「ふぇ?」


 これは意外だった。あの兄弟にもそういったかわいらしくて子供らしい感じの話があるなんて思ってなかった。


「驚いたでしょ。私もそれ初めて聞いた時驚いたわ。幼いって思って。あの年でよ」


「うふふふ……」


 いつの間にか私は笑っていた。それにお義姉様は嬉しくなったのかデレる。


「何よ、あんた笑った?」


「はい、その話がおかしくて」


「おかしくて悪かったわね!」


 お義姉様は私の両胸を突然揉んできた。


「ちょっ、お義姉様⁉」


「結構いい胸しているわね。これは洗い心地がよさそうね」


「どういう意味ですか? それにそんなに揉んで」


「どうせ体中を洗うんだからこれくらいは当然よ」


 私はお義姉様の手を振りほどいて温泉から出た。


 泣いていたのと温泉の暑さで出た瞬間に息が切れそうだった。


「はあ……はあ……」


「あんた大丈夫?」


「喉が渇きました……」


「電話でジュースを用意するわね」


 この貸し切りの温泉ではルームサービスがある。お義姉様はジュースを頼んで私に飲ませた。


「ありがとうございます。すっきりしました」


「しばらく外気浴ですっきりするといいわ」


「はい……ご迷惑をおかけして申し訳ございません」


「こんなことで謝んないで。私もいきなり胸揉んで、すまなかったわね」


「いえ、それで……今で構わないです。私の体を洗ってください」


 私はお義姉様との温泉でのやり取りでいい感じのムードになったと思いこんなお願いをしてしまう。


「いきなり何? 女の子同士の触れ合いは良くないんじゃないの? それにあんた未成年でこういうのは悪いんじゃない?」


「私がしてほしいのです」


「そう、まああんたを慰めるつもりで言っただけで本気でやろうとは思っていなかったわ」


「そんな⁉ じゃあお義兄様と青葉の話も?」


「あれはマジよ。ホント子供かって……そうね、私達も……」


 私はお義姉様に頭、体、顔の順番で洗われた。


「あんたの肌すべすべでもちもちね。ヤンキーって筋肉が凄いと思っていたけれど」


「筋トレは苦手なんです。でも空手と喧嘩は得意でした」


「どうでもいいわ。さて、それじゃあ……」


「次は私がお義姉様のお体を洗ってあげます」


「はあ? どういう意味よ?」


「お義姉様のような身分の方に体を洗われて恩返しなんて出来ません」


「別に、私はやりたくてやっただけだから」


「私もやりたくてやりたいのです」


「はあ……しょうがない妹ね」


 私は体を洗ってくれたお礼と称してお姉様の体を洗ってあげた。茶色い髪はさらさらしていて、お体は全体が細くて洗いやすく、お顔もすべすべだった。


「綺麗なお体で」


「くすぐったいんだから……でも、水火さんが元気になってくれてよかったわ」


「ふぇ?」


「何でもないわよ」


「これからもよろしくお願いしますね、らいちお義姉様」


「私の名前は呼ばないで。普通にお義姉様と呼ぶ」


「はい、お義姉様」


 お義姉様は拗ねてそれ以上は何も言わなかった。


 温泉から出て私は水分補給などをした後ベッドで寝た。


 そして寝ながら私は思う。


 今が、楽しくて幸せ。

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家を追い出されたヤンキー女子、資産家の次男と結婚する。 長尾水香 @nobusige11

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