「遂に俺を指で呼ぶようになったか」


「びっくりした」


「通信端末にいくら連絡入れても出ねぇんだから、急いで帰ってきたぞおい」


「うそ」


「うそじゃねぇが?」


 差し出される通信端末。着信の嵐。


「えっうそじゃん。そんなばかな」


「初期設定がサイレントモードだったんだな。若い者が聞いて呆れる」


「あんたのほうが若いって事実がまだ受け入れられない」


「歳上が好みか?」


「どちらでも」


「見てみろよ。いちばん新しいやつだ」


 通信端末の光。


「そう。それのいちばん上。それだ」


「なにこれ」


「そのまんまだよ。これでいいか?」


「これ。見に行ってたの?」


「そうだよ。さすがにあれだけ殺してここに居続けるのもいやだろうと思ってな」


 セーフハウス。南国。


「行く前に一言いってよ。帰ってこないかと思って、心配、したのに」


「セーフハウスの下見を教えるばかがいるわけねぇだろ。セーフなハウスでセーフハウスだ」


 無言。


「これ。あなたもついてくるんだよね?」


「人をオプションみたいな言い草しやがる」


「ついてくるんだよね?」


「おまえがついてくるんだよ」


 無言。


「俺が指を鳴らしたら、おまえが来るんだよ」


「嫌よ年下。あなたが来なさいよ」


 彼が、指を鳴らす。いつもの、擦れて掠れた音。


「へたくそ」


 彼女が、指を鳴らす。ぱちっ、という綺麗な音。


「いい音の出し方、あとで教えてくれ」


 夜。




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夜、指が鳴ったら (Hi-sensibility) 春嵐 @aiot3110

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