愛を知らない彼氏

 休日出勤の帰り、大号泣してる女の子とすれ違った。人生であんなに泣いたことはあったかなと考えながら薄暗い一人暮らしの部屋で一息ついた。男がベッドに座ると家のドアが開いて彼女が入ってきた。

「話があって来たの」

 その言葉を聞いて彼氏は少し覚悟をした。



 2人の出会いは合コンだった。男は見た目もかっこよく、女性に対しても紳士に接するためすごくモテた。ただ誰かのことを好きになることがなく、相手から好かれて付き合ったとしても長くは続かなかった。前の彼女と別れてすぐに友達から呼ばれて合コンに行った。女の方も整った外見で男性からモテるが少し堅い部分があるため彼氏はあまり出来たことがなかった。珍しく彼氏が出来たかと思うと、彼の愛が重すぎて疲れたと言って別れていた。そしてその合コンでそんな2人が出会ったのだ。

 男慣れしていなかった女は男の紳士で接しやすい態度に惚れるのに時間はかからなかった。何度も2人でデートを重ね、女は男からの告白を待てなくなり自分から告白して交際が始まった。



「私の事、好きだったことあった?」

 話し始めてすぐ彼女の目は涙ぐんでいた。

「最初から好きなのは私だけかもってわかってはいたつもりだったの。でも付き合ってから好きになってくれるかも知れないって考えて、とにかく付き合ってもらおうって思って私から告白したの。でもきっと今も好きになれてないでしょ?」

「、、、、ごめん」

「何で謝ってるの?好きじゃないのに付き合ったから?好きになれなかったから?今私が泣いてるから謝ってるの?」

 彼氏は何も言えないでいた。

「ごめん、こんなこと言うつもり無かったのに。じゃあ本題、別れてあげるね」

 そう言って彼女は泣きながら笑って見せた。

「別れてあげるって、俺は別に」

「やめてよ、別れたいとは思ってなくても付き合ってたいとも思えてないでしょ?」

 そんなことないと言って一緒に泣いて彼女を抱いてあげられない自分自身に嫌気がさした。彼女のこと好きになれたと思っていた。今までの人達に比べたらきっと好きだった。そんな考え方でそばにいたからこんなに傷つけたんだ。傷つけていたのに気づかなかった。気付こうとしていなかった。

「ごめん」

 彼氏はそれしか言うことが出来なかった。どの言葉も彼女を傷つけるような気がして何も言えなかった。彼女はごめんと言われるのが1番悲しく感じた。自分のことを好きじゃないと何度も伝えられているように思ってしまう。

 女はこんな風に誰かを好きになるのは初めてだった。手放したくなかった。そう思う程に男との愛情の差を実感した。彼は私の初恋だけど、きっと私は彼の初恋にはなれなかった。だから彼の心に残る女にぐらいはなりたかった。笑顔の私がずっと忘れられないように最後に精一杯笑顔で別れを告げた。彼の顔は見えなかった。苦しくて泣きそうになるから見れなかった。

 男は笑顔でいなくなる女に心を締め付けられた。そんな感情は初めてだった。女が心から消えることはないだろう。それでも男は愛を知ることは出来なかったのだ。彼女みたいな人は初めてだった。初めての感情をたくさん教えてくれた。そんな彼女を好きになれなかった自分がいつか人を好きになれることはあるのか。そう考えながらしばらく男はベッドから動けずにいた。

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立ち別る恋人たち ボブジョンソン @bobjohnson

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