正直で不誠実な彼氏
「ごめん、別れてほしい」
デートの途中、彼氏が彼女に言った。
2人は高校の頃、同じ部活のキャプテンとマネージャーとしてよく一緒にいた。周りからは付き合っていると思われていたし、2人をよく知る人からは早く付き合えばいいのにと思われていた。ただ男がとにかく真面目だった。部活をやっていた頃は部活に集中したいから恋愛をする気はないと言い、引退をしてからは受験に集中したいから恋愛はしないと言っていた。そばで見守っていた女もそんな男と一緒に頑張り続けた。そして、結局卒業まで2人が付き合うことは無かった。志望校も違うしこのまま疎遠になってしまうのかと女は少し悲しかった。ただ自分から動き出す勇気はなかった。
合格発表の日、男から会いたいというLINEが来て高校の近くの公園で2人で会った。お互いに第1志望の学校に合格していたことを伝え合い、男から告白されて付き合うことになった。
そして大学3年生の春の今まで付き合ってきた。彼は一途で正直で真面目だったため彼女は愛され続け、幸せに過ごしてきた。今に至るまで情熱的に彼を求めるほど愛していたかと聞かれればそんなこともなかったかもしれない。でも今まで浮気などせず、お互いに誠実に付き合い続けていた。それなのに、なぜ彼女は別れを告げられたのか。確かに今日のデート中、いや先週あたりから彼の様子がいつもと違うような気はしていたけど、何も心当たりがなかった。当然のように彼女は聞いた。
「急にどうして?」
すると彼はすごく辛そうな顔をして言った。
「俺、浮気した」
「私と別れてその子と付き合うの?」
「いや、先週のサークルの新歓で飲みすぎて女の子とホテルに行って」
泣きそうな様子で彼氏がもごもごと喋るため彼女が言葉を遮って言った。
「ワンナイトってこと?」
「そう、きっと俺が言わないと知られることは無かったと思うけど言わなきゃいけないと思った。君のこと本当に大好きだけど、俺こんな不誠実なことして一緒にいられない。本当にごめん。」
とうとう彼は泣き出した。
『なんであなたが泣くの?浮気されて別れたいとまで言われてるのは私なのに。不誠実なことってなに?私の気持ち考えず正直にあったこと話して罪悪感から解放されることの方がよっぽど不誠実だよ。嫌いになったって言って別れたいって言われた方がよっぽど楽だったよ。いつもあなたの自己満足でしかない』
彼女は言いたいことがどんどん溢れそうになるが、別に別れたっていいと自分を落ち着けて言った。
「わかった。別れよう」
彼女の本当の思いが彼に届くことはなかった。いや、届けようとしたことがなかった。
男と別れた帰り道、彼女は1人で泣きながら歩いた。なんだ、結局すごい悲しいじゃん。すごい好きだったんじゃん。そう思いながら思い出した。そういえば私、愛してるって言ったことも好きって言った記憶すらないや。嫌なところだって言えたことない。なんで今気づくのよ。別れたくなかったってことにも気づくのが遅すぎた。
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